第15話 皇都キオルトへ
[Side_Megumi]
「どうして・・・どうしてそんな人に協力するんですかあなたは!!」
私は反射的に男の人にそう尋ねていた。
あの人の格好は錬金術師のそれだ。
錬金術は人々の幸福のために薬の研究をしている人達だったはず。
「君には君の・・・僕には僕の正義がある。それだけだ」
迷いのない目。そう、これは。
「だから何?私を守るために餓死寸前の兎人を殺しただけでしょ。そんな獣人よりアーサーの方が万倍大事だわ。それに放って置いたらアーサーが自爆する可能性もあるんでしょ」
そう言った初音さんと同じ。
「あなたはアーサーさんのお姉さんのことを・・・」
「アイリーンはアーサーだけを病的なまでに愛している。その全てが狂おしい」
怖い。人間で言う所の背筋に冷たい何かが走った気がした。
男の人はお姉さんに薬を飲ませるとフォルテさんの死体を探り、つまみあげると透明な袋の中へ。
「ただの猫の死体か。セフィロトの樹は魂と共に散ったようだな。まあ何かの素材には使えるだろう」
「・・・あなたは私達と戦わないの?」
私は首を横に振る。フォルテさんが死んだ以上壊されたら私を直せる人はいない。
「そう、いい子ね。神言を使いまくって生命力を消耗しすぎたから今はちょっとヤバイのよ。でも、あなた一体ならなんとか破壊できるけどね。ふふ。でも頭のいい子は大好きよ。だからついでにいいこと教えてあげる」
お姉さんは今日宿を引き上げて故郷のセンダーヒに帰るそうだ。
なので今日は宿の中で大人しくして明日になったらキオルトに向えばいいとのこと。
キオルトなら神言研究は進んでるし錬金術を教える学校もあるからそこで5年ぐらい勉強したほうがいいと言う。
「これからあの連中を襲いに行くんじゃないのか?」
「今のアーサーはもう充分堪能したもの。5年後を楽しみにしているわ。努力したのに私に負けて絶望するアーサーも、私に勝って歓喜するアーサーも、きっと私を溢れさせてくれる。だからね、ロボッ娘ちゃん。アーサーを死ぬ気で努力させてね。じゃないとつまらなくなって皆殺ししちゃうかもしれないから」
私が有機生命体だったら失禁していただろうか。それとも恐怖で顔を染めていただろうか。
微笑みながら話すこのお姉さんが怖い。
「震えてるのね。可愛い」
「では宿へ行こう」
光の玉を男の人が掲げると二人はどこかへと消え去った。
[Side_Megumi END]
気が付くと懐かしいそれでいて戻りたくない場所にいるのが解る。
「やるではないか」
普通に驚いた。幼女神は満足そうにそう微笑んでいるじゃないか。
死んでしまうとは情けないとか言われると思ってたよ。
「いや。猫の身であそこまでやれば大したものじゃ。天国への便宜を図ってやろう」
冗談じゃない。アーサーの姉がいつまたちょっかい出してくるか解らないのに天国でなんかくつろげるか。
「頼む!!もう一度生き返らせてくれ!!」
猫だからそうは見えないだろうが俺は土下座していた。このまま終わるなんて話があってたまるか。
俺は初音に何も報いてはいないし何よりアーサーの姉ちゃんをこの手でぶちのめしたい。
あとついでにブルギットとか言うやつもシバく。
俺は人間だった頃何でもすぐ諦めていた。自分には出来ないと勝手に投げ出して全てを失ったんだ。
もうたくさんなんだよ。途中であきらめるのは。
「・・・解ったぞい。もう一度猫としてというのは無理じゃが代替案はあるさね」
「本当か!!」
「一緒に死んだ鳳凰人の力を借りてお主を鳳凰人として蘇生しよう。さすがにその姿はひなだと思うんじゃが」
カーミラか。やっぱりあいつは・・・だが。
「大丈夫だ。この際ゼイタクは言わない」
「姿は全身ピンクで体型は丸っぽくなるが変身能力をつけようぞ」
待て。どこかで聞いたような気がするぞ。その、なんだ・・・。
「・・・コーヒーを飲むと酔っ払うんじゃないだろうな?」
「ふむ。よお解ったの」
「それだけは駄目だあ!!」
[Side_Hercule]
俺は宿屋の部屋の片隅でみんなの話を聞いていた。
無事戻ってきたメグミによると今日ここを出てセンダーヒに戻るから今日は宿屋でじっとしているよう言われたそうだ。
姉はうそだけは吐かないからその言葉は信じてもいいと初音の両腕を治療しながらアーサーが言ったことで罠の線は消えたらしい。
初音と明日香とアーサーとメグミは明日にでも皇都キオルトに行くというが俺はそんな気にはなれない。
「俺はアイリーンを追う」
初音達を守るために着いているくせに薬で眠らされていましたなんてマヌケ以外のなんだというのか。
俺のふがいなさのせいでフォルテとカーミラが死んだのだ。
初音達は最初俺を説得しようとしていたが揺らぐような決意ではない。
俺は翌くる朝一番に単身でセンダーヒに向けて歩き出した。
[Side_Hercule END]




