第14話 圧倒的な変態と錬金術師
戦闘シーンって難しいです。
「ルビーブラスト」
エルの火炎放射魔法が直撃しても涼しい顔。
「サファイアブレード」
明日香の水の刃を受けてもキズ一つ負った様子もない。
「ダイアモンドレイン」
初音のレーザーの雨をアイリーンに放つもどうやら寸前で消えているようだ。
体質というより魔法を無効化する神言を予めかけているかバリアのようなものを張っているかのどちらかだな。
俺は彼女達を観察しつつアーサーの顔や体をなめている。
賢者の石は万能の薬エリクシルの原材料でもあるそうだ。
セフィロトの樹を魂に宿した俺のだ液にもそれっぽい効果があるらしくなめると傷がふさがっていく。
3人を相手にしても全く引けをとることなく戦い続けているアイリーンに猫の身で襲いかかるのは蛮勇だろう。
チャンスは一瞬。こいつの気が緩んだ隙を突く。
だが現実は非情だった。
初音はガントレットの爪は折られた挙句腕をへし折られ、明日香は生きたまま心臓をえぐられて死亡したのだ。
それなのに隙がない。
こいつ本当にただの獣人なのか。
・・・エル?何で寝てるんだよお前。
「見てえアーサー!あなたの大事なお仲間のドリルの子の心臓よ♥きれいな色・・・うふふ。・・・気絶してるの?・・・つまんない」
そう言うと明日香の心臓をアーサーの顔に叩き付けた。
「ぐ・・・なん・・・」
「あはは。気が付いたアーサー。あなたのお友達のライカンスロープ殺しちゃったあ♥」
「・・・!!」
だめだ。こいつは救いようのない変態だが実力は確か何てものじゃない。
これだけ面子が揃っていて勝てないなんて・・・。
いや違う。俺が命をかければいい話だ。何しろ俺は神言を知っているんだから。
ただ知っているだけだから使えるかどうかは解らない。
何しろこの体は猫だ。魔法を越える魔法に耐えられる保証はどこにもないんだ。
だがアーサーの苦悶に喘ぐ表情を恍こつとした顔で見ているアイリーンを見て俺は考えるより先に彼女の首に噛みつこうとしていた。
どがあん!
突然雷が俺の背骨に直撃した。
体が焼けるように熱い。目から口から血が流れているのが解る。
空は紺碧で雲ひとつない天気なのにだ。
「機をうかがっていたのは君だけではないんですよ。猫君」
そう言って現れたのは鼻眼鏡をかけて貫頭衣を身に着けたウェアライオン(獅子人)。
「・・・錬金術師・・・?」
錬金術?まさかエルを眠らせたのはこいつか。
確かに奴の立っている場所は風上にあたる。
「・・・ブルギット。きさま体調を崩していたんじゃなかったのか」
「獅子身中の虫がいたようだからな仮病の薬を使わせてもらった」
乱入した男が成龍に気を撮られている隙に俺は明日香の死体の上に乗った。
「成龍!明日香が生き返ったら皆を安全なところに飛ばしてくれ。オーファスタファン!!」
まだ体が温かいから魂と肉体を繋ぐ絆はまだ切れてないはずだ。
自分の血を明日香の心臓をえぐられた穴に注ぎ、魔力をこめるとすると明日香の死体が光を放ち、起き上がった。
「・・・夢・・・ではありませんわね」
明日香の穴がふさがり彼女が口を開いた瞬間成龍は水晶玉らしきものを掲げ、初音・明日香・アーサー・エルの4人をどこかへと飛ばした。・・・っておい。あの方向は宿屋じゃねえか。
「やはり裏切ったのね。東雲」
「ああ。明日香をお前の快楽のために殺させるわけには行かないからな」
「そう。じゃああなたの生首を手土産にするわ」
そういってアイリーンは成龍に向うも赤い影が彼女を包囲した。
肉を骨を砕く音が響く。
「必殺。アイアンメイデン」
カーミラだ。
メグミはブルギットと呼ばれた男を拘束している。
「アンチゲシュペンスト」
倒れたままアイリーンが神言を唱えるとカーミラが灰になっていく。
「幻想種殺しの神言か・・・」
「カーミラさん!?」
思わずメグミが手を離すとブルギットは彼女の元に駆け寄りアイリーンに肩を貸しているのが解った。
くそっ。もう限界だ。意識が白くなっていく。
「どうして・・・どうしてそんな人に協力するんですかあなたは!!」
「君には君の・・・僕には僕の正義がある。それだけだ」
もう何も聞こえない。死者復活なんて強力な神言を半死半生の猫の身でやったツケがきたらしい。
俺、頑張ったよな?・・・頼むからヒヨコは勘弁してくれ。
仮病の薬は文字通り仮病のための薬で服用すると一定時間高熱が出ます。




