第12話 一気飲みは体に毒なのでまねをしないで下さい
「アーサー。二人だけで話があるんだがいいか?」
「やらないか?」
フォルテの言葉に顔をしかめつつ成龍は口を開いた。
「違う。アイリーンのことだ」
アーサーはそれで全て察したらしく解ったと言って席を立つ。
「待って。アイリーンって誰?」
「僕の姉さんだよ」
「身内の話ならここですればいいじゃない。それとも聞かれたらまずいことでも・・・」
「ごめん」
そう言ってアーサーは成龍とどこかへと去って行った。
よほど込み入った話らしいな。明日香も心配そうに見ているし。
「フォルテ君、明日香、あの二人を尾行して」
「おいおい。誰だって秘密にしておきたいこととかあるだろ」
「いい趣味とは言えませんわね」
「び・こ・う・し・て♥」
怖え!?目が笑ってない笑顔ってマジ怖え!!
思わず二人して敬礼しながら「サー!!イエスマーム!!」って言っちまったよ。
追いかけると二人はすぐ見つかった。
アーサーの匂いを間違えることはしませんわと顔を赤くする明日香は少しきもい。
「フォルテ。今私をけなしませんでしたか?」
「うんにゃ。付き合ってるわけでもない男の匂いを覚えるのはさすがにどうよなんて思ってないから安心しろ」
「それなら・・・まあいいですわ」
二人が酒場には言ったのを見てこっそり入ることに。
「あのう。ペットは・・・」
女の店員が来たな。目立たないようにしないと。
「ミルク」
「さくらんぼフォーレ」
「いえ。ですから・・・って猫が・・・」
騒がれる前に女店員の口を肉球でふさいだ。
「獣人が生まれた理由を身をもって知りたくなかったら大人しく注文通りに持って来い」
声を1オクターブ下げて女店員に丁重にお願いすると彼女はこくこくうなずきながら足早に去って行った。
よし、あいつらは気付いてないな。
「フォルテ。意外と悪党ですわね」
「目的のために手段を選んでられるか。見知らぬ女店員と初音のご機嫌を秤にかける必要はないだろう?」
「それはそうですが・・・」
そんなことよりあの二人の会話に集中することにしよう。
[Side_Arthur]
「お前のうそはばれているぞ」
黒騎士は席に着くと女店員にビアを二つ注文しそう言った。
初音が生きていることがあいつにばれたということか。
現時点で一番最悪な事態が起きたな。
「ウェアラビットの死体はあいつにくれてやったって言うのにどうして・・・」
「お前には監視が付いていたんだ。・・・まあ俺なんだがな」
「お前かよ!」
女店員が持ってきたピアを一気に空ける。
「明日香を救う人材を探していた俺からすれば渡りに船だったよ」
「恩を仇で返してんじゃねえ!!」
僕は成龍のピアも飲み干し、木製のカップを机に叩き付けた。
あいつは僕にとってコンプレックスでしかないんだ。
家に伝わる神言を全て把握し、全ての学問や戦闘技能も彼女には届かない。
しかもそれを鼻にかけては僕をバカにし僕に彼女が出来ると強引に分かれさせられた。
実験でウェアラビットの心臓が欲しいといって初音の命を狙っていたので餓死寸前のウェアラビットを殺してあいつにやったら思いっきり浮かれてやがったんだ。
それなのに僕のウソを知ってまた初音の命を狙う気か。
「どれだけ・・・どれだけあいつは僕のことが嫌いなのさ!!」
「それに関して俺は何も言えん。アイリーンはアーサーに家を継いで欲しいそうだ」
「そして僕を一生笑いものにするつもりかよ!あいつの比較対象にされるのはもう真っ平だ!!」
アイツの顔を今度見るときがあったら刺し違えてでも殺してやる。
成龍はそんな俺の気持ちを知ってか知らずか悲しい面持ちだ。
「俺も下に妹がいるからな。姉を憎むのはあまりいい気がしない」
「上手くいってる兄妹もいればそうじゃない姉弟もいるさ」
ふと思う。あの時ウズノミアに俺達を飛ばしたのはあいつが迫っていたからかと。
成龍に聞くとその通りだという。
解らない。僕と初音だけアイツに突き出せば済む話なのに。
「お前はあいつの手先じゃないのかよ」
「妹を助けてくれるならアイリーンと対立してもいいと思ったからだ」
ただの獣人が?神言使いに?
「せめてもの礼だ。わびでもある・・・」
「成龍。俺は初音達から離れた方がいいのかな。それとも・・・」
「今はやめておいたほうがいい。明朝、彼女は君達の宿に強襲する気だ」
そう言って成龍は1,000ラスクを置いて去って行った。
さっさと宿を引き払えば済む話かもしれないがそのときは全てを説明しなければならない。
俺が初音の同族を殺したということを。
ならば戦うしかない。僕の使える神言には自分の命を代償にして相手を仕留めるものもあるんだ。
「初音を守れるんなら僕の命なんて・・・」
ふるえているのはきっと武者震いに違いない。
ピアはビール。さくらんぼフォーレはさくらんぼのエキスを牛乳で割ったものです。




