最終話 世界は悲しくなんかない
【宮本武蔵視点】
私は、キム・ジョンファンに夫を殺されて彼の妻となることで私は宮本武蔵に変性した。それからと言うもの、私はずっと強い男を探している。英雄への絶対命令権などと言うチートではなく、本物の強さと言うものを持つ者を。金時と共にニフォンに着き、孫行者の情報を調べると彼の本名はモイセス・フォン・ヤマモトと判明したのだ。ヤマモト邸に武蔵に変性したことで得た知識をもとにうろ覚えのニフォン語で果たし状を書き、一つ間違いを犯したことに気付いた。
「私としたことが、対決する日の日付を書くのを忘れていました」
「あっはっは。むっちゃんのドジッコ」
暗号みたいな文字書いてた人に言われたくない。深くため息をつき、もう一度ヤマモト邸に行くと黒い鎧を着た男が立っていた。
「そこの不審者二人。何者だ」
街中で黒い鎧を着た人に不審者扱いされるなんてね。……しかも、英雄の気配を持った男に。
「我が名は宮本武蔵。問おう、貴殿は何の英雄か」
「我が名は……ガウェイン。この家の者に仇をなす気ならば我が相手になろう」
ガウェイン。午前中は、通常の3倍の力を保有する円卓の騎士か。今は午前9時。何とか、金時と連携で3時間持たせるしかない。私は、金時とアイコンタクトをすると二本の刀を抜いた。
【宮本武蔵視点 了】
「第一回!フィオナたちに反省を求めても無駄なので、闇鍋ドボンゲーム!!」
どんどんぱふぱふひゅーひゅー。
学園に許可を取り、航空機襲撃事件の犯人である6人に反省を促すため闇鍋大会を行った。因みにこの鍋を作ったのはセフィラの女性陣。礼志君を鍋つくりに参加させないために、「男子厨房に入るべからず」で押し切ったのだ。いくらなんでも礼志君の薬品料理はシャレにならないからね。
「ルールは簡単。私たちが作った闇鍋をフィオナ、ク・ホリン、フランソワ、ステファニー、黒川十萌、貴悦法眼の6人に具を1個ずつ食べてもらいます。そしてその中でドボンの具を食べた人には罰ゲームと言う次第です。取った具は必ず食べること。そして、罰ゲームに抵抗した場合は私のスキルで末期虫歯の痛みを与えるので大人しく受けること。それがルール!」
ちなみに、フランソワは人間に戻している。ただ、礼志君に襲い掛からないように鎖につないでいるのは言うまでもない。6人はスープを取り分け、実食開始。鍋の表面にはお父様の魔法で黒い光の幕が張られており、中に何が入っているかは箸で取り出さないと取れない仕組みになっている。
「食べられるものでしょうね」
「もちろんよ。何のために礼志君を料理班から外したと思ってるの」
「それを聞いて、安心した」
礼志君の料理の被害者であるク・ホリンはあからさまにほっとした表情を見せている。それよりさっさと始めるわよ。
「最初は私ね。いきなりドボンとかやめてよ」
そう言って、フィオナが取り出したのは……。
「やけに小さいはんぺんですね(もぐもぐ)……甘じょっぱあ!?」
つゆを吸って、ふくらんだマシュマロだった。私たちは事前にどの具がドボンかあらかじめ決めてボードに記入している。そのボードに書かれている具の一つがそのマシュマロだ。
「フィオナ、アウト」
信じられないって顔してるけど、事実だから。合図によってウレタンの棒を持って現れたのは、出先で英雄・関羽になったらしい優一君。
ばしいん!優一君は、フィオナの尻を心地いい音を立てて叩き退場した。尻たたき役がセフィラの男と言っても英雄になっているのは兄さん、久保、涼介、優一君の4人だけなのでこの持ち回りとなっている。
ステファニーが、ドボンの具であるホビロンを食べて兄さんによるタイキックを食らった時にふと英雄の気配を察知した。
「英雄が、3人か」
フィオナによると、世界中に魔王の魔力を継承した者がいるとのこと。ならば、このキオルトに英雄が集結しても不自然ではない。
「英雄の人となりを調べる必要があるわね」
「じゃあ、この闇鍋は……」
「終わってからね」
あ、しょんぼりしてる。それよりも、新しい英雄のところへ行かないとね。私達が、英雄3人のもとに行くと女の人二人が黒い騎士と戦っていた。
「誰かと思えば、成龍じゃないか」
そう声を上げたのは義姉さん。知り合い?
「ああ。久しぶりだな、カーミラ」
「どちら様?」
義姉さんの話によると、この黒騎士は明日香さんのお兄さんだそうだ。初めて会ったときは気付かなかったらしいけど、その頃にはすでに英雄ガウェインに変性していたとか。そうなんだ。兄さんが複雑そうな顔しているけど、今はスルーしておこう。
「で、貴様らは誰だ」
「宮本武蔵。元ダイクヮンミン第一夫人です」
「坂田金時。同じく第二夫人だったんだよ」
ダイクヮンミン国?名前は聞いたことあるけど、うーん。何でも彼女らによると、ダイクヮンミン国はクーデターが起こって英雄ギルガメシュ政権が崩壊したそうだ。そしてそのギルガメシュを倒したのは孫行者。……て、兄さん。
「ふむ。確かにギルガメシュは、俺とディルムッドが組んで倒した。それでディルムッドが命を落としたんだ。俺たちは、痛み分けだと思うがな」
兄さんがそう言うや否や、坂田金時を名乗った女が斧の様なものを兄さんに振り下ろし、それを兄さんがかわすのと同時に坂田金時が吹き飛んだ。後ろを見ると彼女のいたところにフィオナが人差し指を向けていた。
「そう。ディルムッドを殺したのは、あなたたちの関係者なのね。彼を殺した男の敵を討つというのならば、私はあなたたちの敵となろう」
数日前、ディルムッドの死体を目にしたフィオナは人目をはばからず泣き喚いた。また、あなたが死ぬことを防げなかったと。ク・ホリンも涙をこらえているようだった。だからだろう、ク・ホリンのあごは頭くらいの大きさがあり、額から光線を発している。両目の間には瞳が七つ。左目は頭の内側に入り、右目は外側へ飛び出していた。手足の指は七本あり、両頬には黄・緑・赤・青の筋が浮かんでいる。電流のように逆立った髪は根本では黒いものの先端に向かうほど赤く変色し、そこから血が滴るほどの恐ろしい形相をしているのは。
「黒騎士。その二人は、私とク・ホリンに戦わせてほしい。私たちの戦友の供養のためにも!」
「承知した」
こればかりは、私も止めることはできない。フィオナは宮本武蔵と、ク・ホリンは坂田金時と戦っている。だがなんだ、この気配は。私は嫌な予感がする方に王者の剣を振るうとそれは簡単に砕け散った。
「俺は英雄・悪来に変性したアーロンなんだな」
オライ?誰かは分からないけど、武器を振るってくるなら容赦はしない。ふと見ると、兄さんや、義姉さん。久保に涼介。優一君にはちゅも誰か知らないけど英雄と戦っていた。何故かそこにいたマーリンによるとかつて彼が魔王化した人達だと言う。
「魔王・キムラヌートが来るのだよ」
それは確か、北アメリク大陸で復活した十魔王の一角のはず。すると、突如暗雲が立ち込め巨大な醜い肉の塊がこちらに来るのが分かる。何あの異常なまでの英雄の気配は。
「なんだな!?」
アーロンや宮本武蔵、坂田金時が醜い肉の塊の中に吸い込まれていく。マーリンによるとあれは英雄に変性した悪意の強い者を吸い込んで自分の体の一部にするそうだ。道理で私は吸い込まれないわけね。って今、ちょっとやばかった。
「うおあああ……!!」
ク・ホリンも醜い肉塊の中に吸い込まれ、フィオナも宙に浮き、吸い込まれようとしていた。
「フィオナ!悪意を捨てなさい!あなたが思っているより、世界は悲しくなんかない!!」
「そんなこと言われても……」
「フィオナ!」
優一君はそう言うと、フィオナの唇にキスをした。
「他人のために怒れる君が、涙を流せる君が、悪意を払えないなんてことはないよ!」
「……」
フィオナの体はゆっくりと重力に従い、優一君の腕の中に入った。それを見てか、ステファニーが宙に浮きながら、久保に近づこうとするも体はどんどん肉塊に近づいていく。
「久保くうん!私の悪意払ってえ!」
「しかしな……」
そう言うと、久保は私の方を見た。何で?しかも、それに気づいたステファニーがさらに肉塊の方へ吸い込まれていく。そんな彼女を抱きかかえたのは、鳳凰亭のメグミさんだった。
「私とまだ仲良くなってないのに、またいなくなったりしないで下さい!!」
「やっと、ステファニーを助けられるんだね。私」
「話は全部聞いた!悪意なんか、さっさと捨てろ!バカ!!」
取り巻きの女の子二人もステファニーの体に抱き着き、彼女は涙を流すと地面に降り立った。彼女はもう大丈夫だろう。
「何か引っ張られる感じはしますが、引き寄せられるほどではないですねえ」
「そいつは、良かったな」
涼介が十萌の頭をなでると、彼女は引っ張られていく感じさえなくなったと言う。それってひょっとして……。
いや、それは後だ。今はあいつを倒す。
「兄さん!」
「おう」
モイセス・フォン・ヤマモト。英雄名は、闘戦勝仏(別名孫悟空)。
「義姉さん!」
「はいよ」
カーミラ・フォン・ヤマモト。英雄名は、ゼウス。
「久保!」
「ああ」
久保翔。英雄名は、素戔嗚尊。
「涼介!」
「おう」
高千穂涼介。英雄名は、ヘーラクレース。
「優一君!」
「うん」
笹木優一。英雄名は、関雲長。
「フィオナ!」
「はい」
フィオナ・マックール。英雄名は、フィン・マックール。
「ステファニー!」
「ふん」
ステファニー・テイラー。英雄名は、ランスロッド。
「十萌!」
「はいはい」
黒川十萌。英雄名は源義経。
「俺も戦う」
「ええと……オスカルさんだっけ」
頷いたから、オスカルさん。英雄名は、ヘファイストス(らしい)。
「我もまだ戦える」
「どうもです」
東雲成龍さん。英雄名は、ガウェイン。
「私を、忘れない下さいよ。礼志君のポイントを稼ぐいい機会……おっとっと。今は、無心無心」
「変態ペンギン……」
「ちょ!?……今は人間だし、こんな時ぐらい普通に名前を……!!」
フランソワ・プレラーティ(……だっけ?)。英雄名はヴィルヘルム・テル。
「今は共闘といこうか、義経」
「できれば赦してほしいのですけれども……」
貴悦法眼。英雄名は、鬼一法眼。
「ヴィクトリアさん、誰か忘れていませんか?」
「大丈夫。忘れてないよ」
はちゅ。英雄名は、大国主命。
私と13人の英雄たちは心身ともにキムラヌートに向き合う。
「おお。ラウンドオブナイツが、ここに揃ったか」
「私はヴィクトリアの軍門に下った覚えはないわ」
皆の闘気が満ちてる時に水を差さないでくれるかな、マーリン。それに、私たちのチーム名はもう決めているんだ。
「私たちは、ディヴァイン・メンバーズ!!キムラヌートを調教するよ!!」
皆が各々に私の飛ばした檄に応え、突撃していく。負けられない。絶対に。
闇鍋ゲームもまだ途中だしね。
ホビロンはふ化直前のアヒルの卵をゆでたもので見た目は完全にヒナというグロテスク料理です。




