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Lapis philosophorum   作者: 愛す珈琲
第八章 to be torn asunder
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第108話 彼とはいい意味で似て非なる人になってほしかったから byバムア

航空機爆破事件による行方不明者全員の安否が確認され、皇立学院は民間に委譲されることになった。

行方不明者の保護者たちは保護者会を開き、今回の騒動に関して学院長、レナルド・リュミエールに責任を取らせようとしたが、これにバムア・フォン・ヤマモト、フローレンス・カスタニエ、御厨初音の3名が反対することにより否決。ヤマモト銀行からオルテガ・フォン・ヤマモトを理事長として出向させ、学院の意思決定を理事会の承認を持ってなすことに決定した。レナルド学院長は、減俸6か月。キオルトの外に出ることを1年間禁止することで話がまとまりかけたが、やはりそれに異を唱える者もいる。


「甘いです!どうして彼を失職させないのですか!」


そう口を開いたのは、チャヴェス夫人だ。彼女の娘であるミナモは、危うく見知らぬ貴族と祝言を上げられかけた以上、腹も立つだろう。


「意味がないからですよ」


バムアはレナルドの幼馴染である。当然彼が無痛症患者であることも、厭世的な性格であることも知っているからこそ、彼そのものに罰を与えても意味がないことを承知していた。それは、かつての妻であるフローレンスも同じことだ。それを説明しても、彼女は矛を収めようとはしない。


「奥様。私が預かっている10歳の男の子は、この騒動の実行犯の一人だそうです。私は、この騒動がなければあの子と出会うことはなかった。あの子、ひどい親に虐待されて箸の持ち方も知らなかったんですよ。でも、箸の持ち方を教え、それができるようになったから頭を撫でた。そんな他愛のないことで、彼は無邪気な笑顔を見せてくれるんです。終わりよければすべて良しと言いますし、同じ失敗を繰り返さないよう監視しつつ、罪を憎んでヒトを憎まない方向で話を進めませんか?」


「そんなの、きれいごとじゃありませんか!」


初音の説得にも聞く耳持たず、かと言ってこの状況で学院長を処分させてはチャヴェス夫人の発言力をいたずらに高めることになってしまう。どうしたものかと皆が頭を抱えていると、時雨沢夫人がポケットから竹を取り出しておもむろにそれを食べ始め、「ユウコ。うるさい」と彼女をたしなめた。


「愛子、うるさいとは何よ!うるさいとは!!」


「ヤマモトさんの奥様とカスタニエさんの奥様は、聞けば学院長とは周知の仲だとか。それでいて、かばっているのではなく罰を与えても無駄だと言う結論をだしたのならば、赤の他人である私たちがどんなに頭をひねったところでそれ以上の結論は出ない。今回は初めてのことだし、結果オーライと言うことにしておくのが筋じゃない?」


「ぐ……」


「バムア殿。オルテガ卿は、ヤマモト銀行の頭取でしょう?学院に出向させて、問題はないのですか?」


久保翔の母は元騎士団長である。今回の騒動とは直接の関係はないが、立場上静観していた。だがこの決定にはいささかの疑問があり、初めて口を開いたのだ。


「ヤマモト銀行はもとはと言えば、アスペルマイヤー家が運営をしていました。経営陣も、そのまま引き継いでいます。それなのに、ぽっと出の彼に出来ることなんかありませんよ。せいぜい承認印を押しているだけでしょう」


辛辣ではあるが、それは事実だった。オルテガがマイホームパパでいられるのは、ひとえに仕事がつまらないというのも一因として存在しているのだ。仕事が充実し、それに全力を傾けている者が家族サービスなどそうそう出来るものではない。


余談として、学院に出向することが決まったときのオルテガはかなり上機嫌だったことを追記しておく。


【レナルド視点】


バムアとフローレンスと徹を引き取った女の3名が私の学院追放を阻止したと聞いて、私は深いため息を吐いた。私はまだ、この茶番を続けられるらしい。決定権をはく奪されたのは痛いが、フィーア・アリオンとサンジェルマンが引き続き教鞭をとることが許されたのは不幸中の幸いか。


魔王フィオナ達は、1週間の停学と反省文の提出か。実行犯にすら寛容とはな」


「彼女達もまた、被害者と言えなくはないですからな。お初にお目にかかります。私は、ヤマモト銀行から出向してきたオルテガ・フォン・ヤマモトと申します」


「レナルド・リュミエール、当学院の学院長です。とは言え、名ばかりのトップに礼を尽くす必要はありませんよ。オルテガ卿」


独り言のつもりだったが、聞かれてしまったらしい。オルテガは俺に一礼しようとしたが、俺はそれを制した。役職上は、この男の方が目上だからな。それにしても、「初」か。一応、挙式に参列した身なのだがやはりこの男の視界には、俺は映ってはいないようだ。それならそれで、煩わしくなくていいか。


「少なくとも、これで私は自分の研究に専念できます。経営面は、あなたに一任致しましょう」


「それはなんとも、やりがいのあることだ。時にレナルド先生」


何だ、まだ用があるのか。


「当家の嫡男の名前は、レオナルドと言います。名付け親はわが妻、バムアなのですよ」


「それが何か?」


「バムアはあなたのことを、心のどこかで思っていたのかもしれませんな」


「お話はそれだけですかな。それでは、私は失礼します」


下らん感傷に浸る趣味はない。何を考えているのかは知らないが、四方山話ほど時間を無駄に損ねるものはないからな。私はオルテガに一礼すると、学院長室に引きこもることにした。


【レナルド視点 了】


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