第9話 さよならバトルバール
戦いのゴングが鳴った。
初音は俺の指示通り脚の間接部を狙い撃ちしている。
実際問題カイゼルひげは初音を踏み潰そうとしているが満月の光を浴びて強化されている兎人の脚力に付いていけてないようだ。
「これはフォルテさんの作戦勝ちですわね」
「デカブツにはデカブツの対処法があるのさ」
人と機械を乗っけている脚に負担がかかっているのは自明の理。
ならば脚部の関節を重点的に攻撃すれば壊れるはず。
戦闘用のロボットを作りたかったら脚部はキャタピラにすべきだ。
ビジュアルにこだわるから自滅するんだよ。
「でもさ。そういうときのための方策とか立ててそうだけどね」
「問題はそこだよなあ」
あのカイゼルひげが何の予防策も立てていないとは思えない。
なにしろあいつはメグミの基盤に爆弾を仕込んでいたんだから。
カイゼルひげが操縦するイーヴニットが脚部を破壊されたことで身動きが取れなくなりこれで初音の無双かと思われたその時、そいつの底部が空気がもれているような大きな音を発し、脚を取り外すと宙に浮かんだ。
「浮遊魔法が使えるんですの!?あの機械は!!」
「ちっ。ホバークラフトかよ」
「フォルテ。ホバークラフトって何?」
「空気を底全体から噴射して動く船だ。普通は水の上を浮いて移動するために使うんだが陸でもやるとは。あれじゃほこりが舞って初音は近付けない」
「ねえ。フォルテ、あれ」
カーミラの指差した方向を見るとイーヴニットの指がドリル状に回転しており自身の脚ごと初音のバトルバールを破壊した。
こうなりたくなかったら降参しろとカイゼルひげが宣告するも初音は魔法を唱え、光の筋がカイゼルひげとイーヴニットに降り注ぐも無傷。
どうやら魔法無効化の処理でもかけてあるようだ。
あれじゃあ初音には手も足も出ない。
いっそエネルギー切れを待つしか・・・。
ん?そういやあれのエネルギー源って何だ?
見たところエンジンを組んでいる様には見えない。
となるとあのカイゼルひげの魔力を増幅させるか何かしているはずだが。
「(初音。奴に破壊された残骸をあいつの指に投げつけてくれ。先端じゃなくて横にな)」
初音に念話を飛ばすと彼女は一瞬きょろきょろしたものの頷き、脚やバトルバールだったものをあれの指に向って投げ始めた。
バカの一つ覚えのようにそれを指で壊していくカイゼルひげと俺を信じているのか破片やがれきを必死に指に向って投げつける初音。
そうしているうちにがれきは粉じんと化したその時、がれきが狙いを外れてドリルじゃない指の付け根辺りに当たり、火花が起こった。
風が全くない上にホバークラフトがチリやほこりを上に巻き上げていることで粉じん爆発が起こり、闘技場は爆風に包まれる。
「一体何が・・・」
「粉末が飛散している中で火種が起こると爆発が起こるんだ!初音は無事か!?」
「上を見な!」
カーミラの言葉に上を見ると満月に重なるように一個の影があった。
それはまるで流星のように白く輝く光をまといながらイーヴニットのガラスの部分に向っていく。
「必殺!!ダイアモンドシューター!!」
それはガラスを突き破り、中のカイゼルひげを蹴り倒した。
言うまでもなくそれは初音。
カーミラによると火花が出た瞬間、粉じん火災の経験があるのかそれとも野生の勘かは知らないが瞬時に上に向ってはねたらしい。
爆発の直後だったからこそカイゼルひげはとっさの判断がつかなかったんだろう。
とは言え結果オーライではあるんだが。
「ダイアモンド系の魔法を自分の周囲にまとわせての自由落下。・・・魔法にはこんな応用もあるんだ」
「迎撃されやすいだろうからまたやるとしたらもっとコンパクトにしないとな・・・結果オーライだが勝ちは勝ちだ」
正直この展開は予想してなかった。
ドリルをがれきで磨耗させて隙を作ってからの反撃を期待していたんだが初音はよっぽどの幸運の持ち主なのかもしれない。
[Side_Hatsune]
私はイーヴニットからカイゼルひげを引っ張り出すと襟首を掴んで問い詰めた。
「どうしてメグミに爆弾を仕掛けたの?」
「メグミ?何だそれは」
「あなたが私達によこした彼女のことよ」
私がそう言うとカイゼルひげは華をふんと鳴らした。
「ああ。13号のことか・・・決まっているだろう。安全装置だよ」
そう言うと男は機械らしきものを取り出した。
おそらくあれがメグミを爆破する装置なんだろう。
「因みにメグミの爆薬は抜いてあるわ」
「バカな。あれは爆薬がついてないと起動しない設計になっておるんだぞ」
「爆薬と同じ重さの生理食塩水が入ってるから問題ないらしいわ」
それを聞いてカイゼルひげは顔を青ざめ「その手があったか」と装置を床に落とした。
「じゃあお仕置きの時間よ、おじさん。私がじっくり調教してあげる」
[Side_Hatsune END]
この後カイゼルひげは初音にボッコボコにされました。
彼を診断した医者に生きてるのが不思議なくらいだと言われるほどに。




