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Lapis philosophorum   作者: 愛す珈琲
第八章 to be torn asunder
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第104話 てっきりアイリーンさんのお友達かと byメイド

【翔視点】


「気が付いた?」


目が覚めると、そこは病室のベッドの上だった。どうやら命は取り留めたらしい。

俺の周りにいるのは、時雨沢とク・ホリンと栗原。何で、この女が?


「私も、キオルトに行きますので」


栗原のフルネームは栗原・フォン・勝美といい、貴族なので貴族特権ノブレス・オブリージュによる不逮捕権を持っているそうだ。そこで、親元から離そうということになったらしい。彼女から話を聞いたという時雨沢によると、栗原は子供の頃から女子校で男の免疫がない上に父親が見つけてきた男と結婚して妊娠した途端、その夫は膨らんだ彼女の腹を嫌悪して行方をくらまして男と不倫していたのだとか。流産したということもあり、男に失望して男をだまして金を奪うようになり父親も変な男と結婚させてしまったという弱みから、それに協力していたのだそうだ。あの、爆裂波動の使い手が父親だったのか。言われてみれば、確かに似ている気がするな。


「妊娠した腹が気持ち悪いから、男と不倫ねえ……」


ふと、俺の脳裏に腹が丸くなったヴィクトリアの姿が浮かんだ。何を考えているんだ、俺は。頭をブンブンと振って、その邪推を追い払うと「ヴィクトリアに置き換えて考えていたの?」と時雨沢が余計なことを聞いてきた。


「そんな事実はない」


「いや。本当の話なんだけど」


「栗原。君の話じゃないから」


ク・ホリン。笑いをかみ殺すな、気持ち悪い。俺はコホンと咳払いをすると、栗原に向き合った。


「キオルトで、何をする気だ」


「取りあえず、私に似てるというヴィクトリアさんに会いに行くわ。それから先は未定。でも、下手に騒動を起こす気はないわ。ここ数年間は変な欲望にとらわれていたけど、なんだかすっきりしてるし」


やはり、デザイアストーンの影響だったか。しかも、金を奪ったお詫びに彼女のポケットマネーでキオルトに戻してくれるそうだ。それはありがとよ。


【翔視点 了】


キオルトに戻ると、兄さんと礼志君が家に戻っていた。途中で義姉さんと合流したから、これでヤマモト家が全員勢ぞろいしたことになる。礼志君はともかくとして、兄さんはダイクヮンミンって国で逮捕されたんじゃなかったっけ?


「話せば長くなるが……」


兄さんがそう言ってお茶をすすると、ダイクヮンミンでのことを話してくれた。私が女性不信の貴族をしばき倒していた頃、兄さんはそれ以上のクズと戦っていたらしい。それにしても、魔王がフィオナだけじゃないとは厄介ね。


「僕はこれと言って、何もなかったな」


いや、礼志君。ないに越したことはないから。因みに、エルキュールさんが保護したと聞いて兄さんが筋斗雲で礼志君を回収したんだとか。


「ひょっとすると、これからあるのかもな。変態ペンギンがやって来るとか」


そう言った瞬間、メイドがノックして中に入ってきた。


「ペンギンのお客様を、お連れしました」


「くけー!!」


一目散に礼志君のところに突っ込んだところをみると、変態ペンギンの確率が高そうだ。

あっさりと礼志君を押し倒し、彼のほっぺたをなめ始めた。


「……兄さん」


「まあ、そのなんだ。噂をすれば影が差すって本当なんだな。……なんかすまん」


「そんなことより、助けて!!」


でも、私たちが動く前にアイリーンが入室してきて変態ペンギンの背中にガラス瓶に入った液体を注いだ。


「くけえ!!?」


変態ペンギンがゴロゴロと転がるのを尻目に、アイリーンは礼志君に金色の腕輪みたいなものを渡した。


「モイセスの血を採取して作った腕輪。名付けて、『ヴァルキリング』よ。これを腕にはめれば英雄と同じ身体能力が得られるはず」


お父様が英雄の能力が血や粘膜を通して伝播することを知り、お母様やアイリーンと話し合ってようやく完成したんだとか。一応試作品だから、試してほしいとのこと。


「それはいいけど……アイリーンさん。フランソワに、何をしたの?」


「濃硫酸をかけただけよ」


えぐい。えぐいよ、アイリーン。変態ペンギンは涙目で背中をさすりながら立ち上がると、「くけー!!」と今度は彼女に向かって突っ込んでいった。まずい。さすがに英雄化した彼女ペンギンの攻撃を食らったら、アイリーンだってひとたまりも……。


「くけ!?」


でもその途中で、礼志君がペンギンを殴ってインターセプト。吹き飛んだそれを、兄さんがわしづかみにして止めた。


「戦うなら屋外だ。壁なんか壊したら、母さんから凍結クルミと嫌いな食べ物のオンパレードの刑を執行されるぞ」


「……うん。そうだね」


私もそう思う。と言うわけで、中庭で戦うことになった。あくまで、腕輪から得られるのは身体能力だけで武器とかはないらしい。それはそうだよね。


「礼志君。王者の剣でも貸しとこうか?」


「うん。ありがとう」


「うふふ……礼志君。この戦いに勝ったら、私と結婚してくださいね」


ペンギンがしゃべった。


「フランソワめ。もう、空気振動に気が付いたのかい」


義姉さんによると、音は空気を振動させることで発生するそうだ。つまり、魔力なり波動なりで空気の振動を操作すれば、人語を介することすら可能になると言う。義姉さん、何でそんなに詳しいの?


「私も、ペンギンとして生きていた頃があったからねえ」


「私もできないことはなかったんだけど、面倒なのよね。演算しなきゃいけないし」


アイリーンはともかく、義姉さんが変銀の首輪をかけられていたってこと?……そんなことが……ありうるね。戦いはすでに始まっており、ペンギンが放つボウガンの矢を礼志君が王者の剣で防いでいた。矢が切れる様子がない以上、あのままではじり貧だ。どうするんだろう、礼志君。そんな戦いの最中、お母様がこちらにやって来た。なんでも兄さんに、手紙が来ているらしい。それも2通。


「誰からだい?」


「英語で書いてあるな。一通目はサカタ・キントキ。もう一通はミヤモト・ムサシだ」


サカタ・キントキっていうのは知らないけど、宮本武蔵は明らかに変性した英雄だ。となると、フィオナとは別の魔王の差し金と言うことになる。


「もっくん。何て書いてあるんだい?」


「……読めん」


そう言って、兄さんは坂田さんからの手紙を私に渡した。ダイクヮンミンと言えば、ハングル文字だ。そんなの私だって読めないよ。そう思いつつ文面を見ると、あきれてものが言えなくなった。


『前田各├─セ~丿゛/ョ─┐″~ノ″様。゛/″ョ~丿君y@敵を言寸ちナニレヽy@乙″ぁナょナニIニシ夬闘を申ιぇ入ます。ぉ─レナ─乙″すょね。ι″ゃナょレヽー⊂シ立レヽちゃぅカゝら。草々。土反田金日寺』


何これ。ハングルじゃないけど、ニフォン語でもないよ。因みに宮本武蔵の方がいくらか読みやすいそうだ。それを受け取り、読んでみると、私は眉間を抑えた。


『前略、闘戦勝仏殿。くーでたーを起こしたでござる者より、お主、それがしの旦那様なりぎるがめしゅを討ち取ったりことを知り申した。そこにて、お主の実力を知りたいでござるのにてそれがしと決闘してちょーだいもらおりきくて筆を執った次第でござる。お主、不意打ちにてしか戦ゑぬ臆病者しからばないでごわんすを証明して奉り候。果たし合ゑる日をうなを長くしてちょーだいお待ちしてちょーだいおるでござる。草々。宮書物武蔵』


うわあ。もんじろー大活躍の巻だあ。


「ハンマー・アイン・ソフ・オウル!!」


礼志君は、神聖波動を結集させてミョルニルを思わせる巨大なハンマーを造り、変態ペンギンの脳天にそれを叩き付けていた。それがクリティカルヒットになり、ペンギンはダウン。よし。今のうちに埋めとくか。


二人ともニフォン語はうろ覚えなので、本人たちはいたって真剣です。


坂田金時の手紙の文面には『前略トーセンショーブツ様。ジョン君の敵が討ちたいのであなたに決闘を申し込ます。オーケーですよね。じゃないと泣いちゃうから。草々。坂田金時』


宮本武蔵の手紙の文面には『前略、闘戦勝仏様。クーデターを起こした者から、あなたが私の夫であるギルガメシュを倒したことを知りました。そこで、あなたの実力を知りたいので私と決闘してもらいたくて筆を執った次第です。あなたが、不意打ちでしか戦えない臆病者ではないことを証明して下さい。果たし合える日を首を長くしてお待ちしております。草々。宮本武蔵』

と書いてあります。

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