第99話 ダイクヮンミン革命
今回の視点はニュートラルです。
中央刑務所が破壊された。それは、偽札工場の破壊を意味する。その上、頼みの綱である大統領は消息不明であることから副大統領は、彼の独断専行に頭を抱えながら亡命の準備を行っていた。
「ふ、副大統領!」
「いい所へ。君、私はシャイナに亡命するからシャイナ政府に連絡を……」
「それどころではありません!!武装した市民グループに、包囲されました!!」
副大統領は兵士の言葉を聞き、そう言えばやけに外が騒がしいと窓からこっそり外をうかがうと大量の市民が武装して押し寄せているのが見える。
「皆、もう少しだ!!大統領官邸・ゴッズハウスを落とせば俺たちは自由だ!!野郎ども、愛する者を勝手な教義で蹂躙されることを良しとするか!!」
『ふざけるな!!』
「女性陣だって、そんなことは望んでいないわよね!!」
女性陣も、彼女を肯定する声を上げる。彼らの先頭に立っているのは、アンネとアルセーヌ。副大統領は知る由もないが、アルセーヌはアンネが英雄化したことでモイセスに英雄にしてもらっていた。彼の英雄名は、アレクサンドロス3世。マケドニアの王にして、世界征服を夢見た英傑である。様々な国を併呑し、歴戦の勇者を従えた王のカリスマが低いわけがなく、脱獄した囚人の呼びかけもあってこの人数が集まったのだ。
「うるさいよ。あんたたち」
そう言って、抜身の日本刀とまさかりと共に現れたのはひとりの少女。
「あなた。あの子、英雄だわ」
「うん。私は、坂田金時。ジョン君が戻ってくるまで、私が相手をするよ」
彼女がそう言って振るってきたまさかりを、アンネがグラムで防ぎ、剣をアルセーヌが剣で受ける。
彼らは坂田にギルガメシュが死んだことを伝えるも、証拠はないと突っぱねられた。因みに、坂田金時の幼名は金太郎と言う。足柄山で熊と相撲を取っているところを源頼光が発見。彼の忠臣となっただけはあり、彼女は教団本部兼大統領官邸ゴッズハウスの防衛に回っているようだ。
「これで夫人が、2人とも出てきたらアウトね」
「くっ!?何で、あんな男の帰りを守るんだ!!大体、君は第2夫人だろう!?」
「そう言えば、2人とも来ないなあ」
「もう一人は、私が切り捨てましたから」
そう言って、人間の女が両手に剣を持って現れた。誰あろう大統領第1夫人、宮本武蔵だ。
「武蔵!?」
「あなたたちが、ギルガメシュを殺したんですか?英雄に絶対命令権を持つ怪力無双を、どうやって殺したのか興味がありますね」
「ギルガメシュは、確かに恐ろしい男だった。私の力では、決して勝てなかったでしょう。ディルムッドさんの命を犠牲にはしましたが、ギルガメシュは闘戦勝仏さんの如意棒で太陽へと散ったのです」
武蔵はそれを聞くと両目をつぶり、金時は他の夫人を切り捨てたとはどういうことかと彼女を問い詰めている。武蔵によると、第3夫人は金時と一緒に戦うつもりだったから切り捨てたという。
「簡単なことです。私は、この教団を解散させるつもりですから。歪なのですよ。人が人を救うなど」
「ええ!?ジョン君の敵討ちしないの!?それに歪って何が?」
武蔵は、それを肯定した。ギルガメシュには従ってはいたが、愛してなどいなかったと。
宮本武蔵は、生涯孤独だった。養子こそ得たものの、血のつながった子どころか妻もおらず、ただ己の剣の道を磨き続けた剣豪である。そんな彼の記憶を持つ彼女にとって、人を愛することなど夢物語に過ぎないものなのである。
「制圧完了で、合っているのか?」
「私と金時を、見逃がしてくれるならね」
さもないと、敵に回る。彼女の眼は、そう告げている。
坂田金時と宮本武蔵。この二人を敵に回すのは、どう考えても得策ではない。
「お前は、この国を我が物にする気はないのか?」
「私は、強い人と戦いたいだけよ。ギルガメシュみたいな反則ではなく、鎬を削る戦いをね。その、闘戦勝仏はニフォンにいるのね」
「ああ」
「わわわ!?自分で歩けるよお~!?」
それを聞くと、武蔵は金時の襟首をつかんで立ち去っていく。彼ら二人が出来ることは、余計な被害を出さないために、二人に道を開けることだけだった。
副大統領の元へ現れた次の兵士は、第3夫人が首をはねられてることを告げた。つまり、英雄はこのゴッズハウスにはいないのだ。ここには、兵士が10数人いるが多勢に無勢。副大統領は、あっさりと彼らに捕獲されることになる。
この一週間後、アルセーヌはダイクヮンミン国の大統領となり、彼と同じ発言権を持つ首相が選挙で選ばれることになるのだが、それはまた別の話。
【モイセス視点】
ディルムッドの死を確認した俺は、神聖波動でこいつを石にすると小脇に抱えて筋斗雲で我が家に帰って来た。正直、水しか口にしてないから腹が減って仕方がない。
「ただいま。何か、食うものないか?」
「あら♪モイセスちゃん、帰ったのね。これで、うちの子3人の無事が確認されたわ!」
母さんはホッとした顔で、嬉しそうにそう言った。
そうか。カーミラもトリアも無事か。そいつは、何よりだが飯……。
「キムティ」
「あ、そうそう。ジークリットちゃんが、キムティを持って来てくれたんだけど……」
「ヴィオラ、母さん、それだけは勘弁してくれ」
俺は、キムティを固辞してチャーハンと豚汁とコールスローにありつくことができた。
やっぱり、ニフォン食が一番うめえ。
【モイセス視点 了】




