Prologue
満月の夜、俺は廃ビルの上にいた。
生きるのがばかばかしくなったのだ。
夢破れて彼女なし。歳三十にして職はない。
この不況で俺は生きる場所を失った。なら生きていても何の意味もないだろう。
遺書を置いてそれが飛ばないように靴で抑え、靴下を脱いで裸足で金網のフェンスを登る。
がしゃがしゃと音を立ててフその上に上がると向こう側に降り立った。
「下らない。でも、まあまあ楽しい人生だった・・・かな?」
誰も巻き添えにならないことを祈りつつ「よしっ」と掛け声を上げるとそのまま身を闇の中に投げ出した。
・・・筈だったのだが何故俺はこんな所にいるのだろう。
見渡す限りの大草原で空は青一色。遮蔽物は何も見当たらない。
緑と青しかない世界だった。
「これが死後の世界か」
「正確には生と死の間じゃ」
いつからいたのだろう。10歳にも満たないと思われる女の子がそこにいた。
「お主も幼女呼ばわりか。これでもわしは1万2000年は優に生きておるのじゃが」
その容姿と鈴を転がしたような声で年寄りを気取られてもなあ。
「まあいいわい。お主、異世界に転生しとうはないか」
「いや。全然」
さっさと死なせてくれ。消滅させてくれたら尚いい。
「成程のう。まあそうでなければ自らの命を絶とうなどとは思わぬじゃろ。とは言え何も今のおぬしを送るというわけじゃないぞい。ちゃんと特典はくれてやる」
「だったらその特典を希望者にでもやってくれ。俺はもう生きたくなんかないんだ」
「そうはいかぬ。王様の命令は絶対じゃからの」
王様?なんのことだ。
「今、古今東西の神々が集まって宴をしておっての。その流れでで王様ゲームをやっておったんじゃ。それでわしがたった今死んだ者に賢者の石を与えて転生させろという命令を下されたというわけさね」
そっちの王様かよ。
「というわけで飲め」
そう言って彼女が取り出したのは赤い液体が入った三角フラスコ。
これが賢者の石か。
「賢者の石とは要は第五元素を物質界にランクダウンさせたものじゃから液体でも気体でも固体でも構わんさね」
これが特典かよ。
「左様。中世の錬金術師達の最終目標じゃ。曰く、海の水と同じ量の黄金を手に出来る。曰く、どんな病気や怪我をも治す。曰く、卑金属を貴金属に変える。その賢者の水を飲めば魂にセフィロトの樹を宿すことが出来る。これを飲めば特別な自分になれることは請け合いじゃろ」
胡散臭い。
「お主が断ってこれを捨てた所で毛穴から流し込むだけじゃが」
何それ怖い。
「お主の選択肢は2つじゃ。自ら飲むか。わしから飲まされるか」
実質一択じゃねえか。言葉通り神々の余興で転生かよ。
俺は半分ヤケになって幼女からそれをひったくって飲み干した。
意識がどんどん白くなっていく。白く白く白く・・・。
気がつくと俺は太陽が照りつけるうっそうと茂る森の中にいるのが解る。
ここはどこだ。直射日光の暑さや草や土を踏む裸足の感触がこれが夢でないことを叩きつけている様で取りあえず靴はないか?・・・あった。しかも見た目新品でサイズもぴったりだ。
これが賢者の石の力なんだろうか。
よく解らない。
Grrrrrr…。
声のしたほうを振り向くとそこにいたのは青い毛の獣。
目が3つある哺乳類なんて初めて見たがそれより牙を向いてこっちを威嚇してないか。
飼い主のいる様子もないしひょっとして・・・。
俺\(^o^)/オワタ