いち
はじめまして、羽柴です。
前回投稿した『梅さんは魔法つかい』の続編です。
『梅さんは魔法つかい』を読んでからこちらを読むことをお勧めします。
今回はちゃんとラブストーリーにするつもりです^^
初めての連載でわからないことばかりですが、楽しんで下さると幸いです。
※のんびりペース更新※
………という夢をみたんだ。
「うっわー…目覚めわりぃー…」
いやだってよ、自分がひよこになってドアに挟まれて死ぬ夢だぜ?コレを夢見が悪いといわずに何という。
他に何か言い方あるかもしれないけど、そこはスルー。突っ込むなよ、恥ずかしいから。
「しかも何なの?あのウザい性格」
まるでオレと正反対…は、言いすぎ。オレと似てる部分はすっこぉーしあったな、うん。認めてやるよ。
「理斗ー?何してんのー?早く降りてきなさい晩ご飯先に食べるわよー」
「あーい、今行くー!」
一階から母親の声がしてハッと意識が現実に戻る。
慌てて時間を確認すると、うたた寝をする前から2時間は経っていた。窓から見える景色は夕空から星空にかわっている。
いつの間にかさようなら夕空さん、本日もごきげんよう星空さん。
オレは生まれつき真っ黄色な髪をバリバリと掻きながらくわあぁと大きく欠伸をする。
この髪色でよく不良と誤解されるのだが、オレは至って真面目で勤勉で爽やかな素敵少年だ。
生きてきた17年間、信号無視すら一度もしたことがない。テストだっていつも学年上位に君臨している。
それもこれも、オレが小学生の時に亡くした厳しい父親の教育の賜物だろう。うーん、オレがソレをいっちゃおかしいか。まぁいいか、事実だし。
オレはイタリア人の父親の血を強く受け継いだらしい。
毛、限定で。
おかげさんで、顔や体格は立派な立派な日本人。何?この生まれ持ってのチンピラ的な中途半端さ。こんなハーフ&ハーフいらない。っていうかこれハーフじゃない。
そんな微妙なハーフのオレは、小さい頃髪のことでいじめられてた。石とか投げられて「やーい妖怪こっちくんな妖怪ー」って。(お前ら毛染めの存在も知らんのか)
そのいじめを偶然見てしまった父親が、どうしたと思う?
そこにいた全員を殴って(もちろんオレも含む)、一言。
「喧嘩両成敗」
いやっ喧嘩じゃねーし!!お宅の息子さんが石投げられていじめられてるシーンだし!!
…なんて怖い父ちゃんにいえるわけなくて、ただオレは泣いてた。
でも泣きじゃくるオレをおぶって家に帰る途中、真っ赤に染まる夕空の下で父ちゃんはオレにこういったんだ。
「理斗、いいか?男は女性を守らなくちゃいけない。守るためには力だけじゃなくて心の強さも頭の良さも必要なんだ。体も、心も頭も強くなくちゃ何も守れないんだ。それなのにお前は何故髪の色をからかわれたくらいで泣いている?そんなんでお前は母ちゃんを守れるのか?」
「だってぇ…」
「だってもクソもない!!」
(ここで父ちゃんがオレの尻に回してあった腕を離してガッツポーズを作った。当然オレは父ちゃんの広い背中から無様に落ちた。あの痛みは今でも忘れない)
「父ちゃんがもしも明日死んだら母ちゃんはどうなる!母ちゃんは…母ちゃんはなぁ!!最っっ高な女性なんだ!あんな儚げで可憐で天使のような女性はもうこの世にはいない!!父ちゃんは母ちゃんを守るためならメロスにだってイカロスにだってなれるいやなってやる!」
「と、とうちゃ…落ち着いて…キャ、キャラが迷子…」
「まぁあれだ。母ちゃんにまでは及ばんが、世の中にはたくさん素敵な女性がいる。あれやこれや合わせて父ちゃんがいえることはただ一つだ」
「女性、最高」
お父様。夕焼けを見る度にアナタを思い出すのです。
不思議と、その言葉が耳に残って離れないのです。
すごく…イタリアです。
「ぐおらあぁ!!理斗ぉぉおおぉ!!飯だっつってんだろぉがあぁぁあ!!!はよこんかいボケェェエ!!!!」
お父様、アナタの天使がボクの部屋の扉を壊すのは何度目でしょうか。
不思議ですね、アナタの天使、ボクには大魔王に見えるのです。
「ぎゃああぁ!!ごめん!!今行くつもりだったんだってマジで!勉強の片付け終わったら行くつもりだったんだって!!!お願いシャーペン一本一本折らないでえぇえ!!!!」
「食後にハーゲ●ダッツ3個で許してやんよ」
「ご飯食べたら買ってきます…」
まぁ、そんな感じでウチは世間騒がす孤食というものはない。兄弟はいないから家族はオレと母ちゃんだけだけど、何だかんだいって毎日一緒に飯を食べる。
「母ちゃんの飯が世界で一番美味い」という父ちゃんの持論は…まぁ、オレも同感だし、父ちゃんが大事にしてた「食事時は家族団らん」をオレも受け継ぎたいと思ったから。
「アンタまだ彼女いないの?」
「いねーよ」
「気になる子は?」
「いたら苦労しねーなぁ」
「アンタ本当に男?」
「イタリアありがとうな立派なモノを所有しております。見る?」
「汚いもの見せないで頂戴。母ちゃんは父ちゃんオンリーなんだから」
何でこう…女というものは恋愛話が好きなのか。
夕飯では珍しい、ウチにとってはご馳走のからあげにパクつきながら毎日散々聞かされる恋愛話に花を咲かす母ちゃんをちらりと盗み見る。
母ちゃん見た目はそう悪くないんだし、オレとしてはもうそろそろ新しい人を見つけて新しい人生を歩んでほしいというか…まぁ、そんなに恋愛が好きならさ?
「なぁ…そんなに恋愛って楽しーの?」
「楽しいわよ!恋した瞬間魔法がかかったようにぱぁっと世界に色が付くの!!」
「父ちゃんも?」
「もちろんよ。父ちゃんは、母ちゃんの永遠の恋人で旦那様なんだから!」
「ふーん」
母ちゃんの、幸せそうなこの顔を見るために毎日のように同じ質問繰り返してるなんて、オレも相当バカだよなぁ。
隠そうともしない愛情が、オレ、実は結構好きなんだぜ?
オレもいつかこんな風に人を愛したいって思うから。
両親が恋愛の教科書ってさ、オレすげー幸せもんだよな!
「あら理斗、食べ終わったの?じゃあ行ってらっしゃい」
願わくば大魔王と恋愛はしたくないけれど。
季節は10月。朝晩寒い時期になってきた。
オレは大魔王から与えられたミッションをクリアするために、上着を羽織り小銭を持って足早にコンビニへ。ハーゲ●ダッツ3つ持ってレジに向かう途中に見えた、母ちゃんの大好物のスルメもついでに買ってやる。ワイロとかじゃないからな!断じて違うからな!……シャーペン…
軽いビニール袋を下げての帰り道。なんか、見たことある気がした。
いや、いつも通る場所だし見たことはあるんだけどさ。なんっつーの?デジャビゥ?的な?
「なぉん」
「うぉっ!?…な、なんだ…猫が…」
真横からいきなり声が聞こえたと思ったら、すげーでかい猫がいた。いや、ビビるだろ?普通ビビるよな!?
………誰にもいうなよ。いうんじゃねーぞ。……………実はオレ、猫…ちょっと苦手なんだ、よな。
しなやかすぎる体躯につり上がった目がなんっつーか…もう!って感じ。出し入れ自由の爪なんて一種の刀じゃね?みたいな。ありえねーよ!なんかこえーよ!
「にゃあ」
「なおん」
「みゃー」
「ぎゃあああああああああ」
「みぃ」
「にゃー」
「フーッ」
なんですかここ!猫パラダイスですか!すいませんイチャパラでお願いします!
気付けば大量の猫達に囲まれていた。叫んでも仕方ないと思う。え?近所迷惑?すんません文句いう前に助けてください猫の爪に殺される潰されるたたまれるエスオーエースッッ!!
「みんなしてどうしたの?」
覚悟を決めてうずくまってたら、頭上から優しげな女の人の声が聞こえた。
「あら、驚かせちゃダメじゃない。ごめんなさい、あなたもう顔上げて大丈夫よ」
オレは声に従って顔を上げた。目の前には、すごく優しげに微笑むきれいな女の人。
また、デジャビゥ。
…この人、どっかで見たことある。でも、わからない。
目頭が急に熱くなった。
色という色が鮮明に、見えるようになった。
『恋した瞬間魔法がかかったようにぱぁっと世界に色が付くの!!』
…なぁ母ちゃん?これが、魔法なのかな?
「あら…ダメじゃない!」
女の人の声にビクリと体が揺れた。
「あ、ごめんなさい驚かせちゃった?それよりごめんなさい、あの子達があなたの荷物を…」
荷物…?荷物って確かオレコンビニで買ったアイスと…
「………あ」
スルメだ。
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