老画家と少年の話
描く作品には常に高値が付き、保有すること自体最高級のステータスとなる。
そのような絵を描く男がいた。
彼には現在でも語られる有名な逸話がある。
中心街の一角にアトリエを開く男。
彼には夢があった。
そろそろ、人生最後の傑作に挑もう。
老いた画家は題材を探しに日々街を巡り始める。
しかし、どれほど熱心に探し求めても、理想に届く題材には出会えなかった。
ある日のこと。曇り空の中を歩く老画家の目に、幸薄そうにたたずむ少年が映った。
雲の切れ目から満月の輝きが眩しく差し込む。
素晴らしく美しい少年だった。
老画家はすぐさま少年に駆け寄り、モデルとして屋敷に招待した。
願ってもみないチャンス。
独りで貧しい少年にとっても同じであった。
老画家は少年をモデルにした絵を幾つも描いた。
美少年を描いた絵は高額で取引され、瞬く間に話題になった。
しかし、老画家は満足しなかった。
一心不乱に少年を描き続ける。
少年も静かに輝く月を背景にポーズを取り続けた。
初めて必要とされ、心が満たされていったのだ。
どうしても少年の美を再現できなかった老画家は一つの結論に達した。
私が描こうとしたから。
少年の美は、生きている少年自身でしか表現できなかったのだ。
自分が描けないほどの完全な美を目の当たりにできたのだ。
老画家は描き続ける気力を失くすのと同時に、深い満足を覚えた。
絵を描くのを辞めてからしばらくして、老画家はこの世を去った。
莫大な遺産と「生きている君こそが完全な美だ」との遺言を少年に残して。
夜の静けさに包まれながら、少年は激しく悲しんだ。
唯一自分を必要としてくれていた人がいなくなってしまった。
生きる意味を見失った少年は毒を飲み、すぐに後を追った。
少年が静かに瞳を閉じたとき、かつて彼を照らした月は消え去り、深い闇だけが広がっていたという。




