ep. 6 時を止める少年
許せない。
許せない。
時よ、とまれ…!!
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少年は迷っていた。
今、時を止めれば彼女の命を救える。
でもこの力、本当に使って良いのだろうか。
この時を止めることで何か代償があるのではないだろうか。
そう、まだ私はこの力を使ったことがない。
大きすぎる力を無条件に使えるわけがない。
ちょっと試してみようだなんて、リスクが大きすぎる行いだ。
考えろ、考えろ…
他に方法はないのか。
…
いや、考えていても仕方ない。
時間がない。ますます混乱して頭の中が「時を止めろ」の一色になっていく。
代償?
彼女の命より大切なものがあるだろうか。
何より…
見殺しにするなんて、許せない。
自分を許せなくなる。
許せない。
そう、自分を許せなくなるのが怖い。
彼女を失うのが怖い。
自分勝手な理由で自分勝手に能力を行使する。
何がいけない?
考えている暇はない。
「時よ、とまれ…」
強く念じながら、時を止める心のスイッチを押した。
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とまった。
周囲が静止し、音が何一つ聞こえない。
しかし、どういうことか、動けない。
この静止した世界では、自分の思考のみ動き、身体は動かないのだろうか。
待て待て…。
焦る。
いったん時を元に戻してみようか。
…?
わからない。
どうやって元に戻るんだ?
パニックになる。
…が、数分かけて焦りの感情を落ち着けてくると、考えがまとまってくる。
視界はある。
音が聞こえないのは、ときが止まって何も動いていないからだ。
そもそも空気が止まっているのだから、音もこちらに到達しないのだろう。
いやまて。空気が止まっている?
できることを一つ一つ確認しよう。
ここで思い当たった。
まばたきはできている。
しかし、少し重い気がする。
もう一度、落ち着いて腕を動かそうとしてみた。
ただ腕を動かすのではなく、空気を押しのけるイメージで…。
ゆっくりだが動ける。
よし、これで彼女を救うために動けるぞ。
ゆっくりと、ゆっくりと。
慣れてくると、少しずつ移動も速くなる。
しかしなかなか到達しない。
ゆっくり、考え事をしてみた。
まだ解決していないことがある。
どうやってこの静止した世界を抜け出す?
もしかして、時が止まったのではなく、自分自身が時の流れから弾き出されただけなのか?
わからないことを考えていても仕方がない。
このまま元の世界に戻れなければ、自分はどうなる?
この世界で、このまま歳を取るのか?
それとも、時が止まっているので歳を取らないのか?
絶望したときに、命を断てるのか? この静止した世界で。
いや、思考が働いているということは、歳を取る可能性は高いだろう。
空腹にはなるのだろうか。
自分が死ねば、時はまた動くのだろうか。
それとも、先ほど考えた通り、自分が時の流れから弾き出されただけで、世界は変わらず動いているのだろうか。
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考えているうちに、彼女のところに到達した。
あれ? 動かない。
もっとも簡単な命を救う方法。
対象者を安全な場所に動かすことだ。
でも、空気をかき分け、地面を押しのける要領と同じには、彼女の身体は動かない。
思案していると、ピンとひらめいた。
『啓示』とでもいうのだろうか。
自分が時を止められるのを知ったときと同じように、確信めいたもので、今、ひらめいたのだ。
生物を動かす場合の条件…。
今回は代償まで、『啓示』を受けた。
彼女や両親を含めた私の知人すべてから、私の記憶が失われてしまう。
周りを見渡す。
物体を動かすことで一時的に彼女を守れはするだろう。
しかし、一時的なものだ。
やはり、安全な場所に動かすべきだ。
どうしよう。
彼女を救えるのは自分だけ。
しかし、救うことで、世界から自分自身の居場所がなくなってしまう。
いやいや、彼女を救うために、すべてをなげうつ覚悟で時を止めたのだろう。
何を今さら。
それに、このまま時の流れに戻れなければ、いずれにせよ…。
決意を固める点においては間の悪いことに、次なる『啓示』が降りてきた。
「時を戻す方法がわかってしまった…」
彼女を救っても、彼女は自分を忘れている。
それは、もっとも恐れた「彼女を失う」ことと同じではないか?
彼女が生きていても。
彼女の世界に自分がいなければ。
自分という存在を社会からリセットしてまで救う意味はあるのか?
血を分けた両親も、自分を忘れている。
親戚も、近所のおじさんも、学校も、オンラインゲーム仲間も。
帰る場所がない。
警察や国を頼るか?
しかし、日本国民と証明するも手段も失ってしまうかもしれない。
それとも、書類上の記録は残るのだろうか。
再度当りの様子を観察した。
彼女を救わない、言い訳を求めて。
よく見たら、命を失うまではいかないんじゃないか?
というのは、自分への言い訳か。
汚い、汚い。
自分の汚さが嫌になる。
結局、彼女のためではなく、自分のためだったのだ。
彼女を救おうと、ヒーロー気取りで時を止めておきながら、これだ。
アメコミのヒーローなら、自分が不幸になっても、彼女を、民衆を救うのだろう。
つくづく理解した。
自分はヒーローではない。
ただのヒーロー気取りだった。
どうしよう。
どうすればいい。
時間はたっぷりある。
考えよう。




