ep.1 世界より大切なもの 〜葛藤と選択〜
世界を滅ぼそうとする我が子。止められるのは、親であるあなただけ。
あなたは、そのとき、どうしますか?
「なんで…??」
あの、純真無垢だった子。
それがなぜ…
「理由が…あるんだよね??」
ここからは我が子の表情までは見えない。
なぜ黒マントをはおっているのだろう。
いや、理由を知りたいのは黒マントではない。
そこにある異世界の宝玉に魔力をそそげば、世界の半分が消失する。
今、まさに、我が子が手をかざして、それを実行しようとしている。
その手は、遠巻きながら震えている。
そのように思えるのは、親としての願望か。
世の中を恨んでいるのか。自分自身ごと世界を消したいほどなのか。
なぜそうなる前に気づいてあげられなかったのか。
理由を聞きたい。
でも怖い。
止められるのは自分だけだ。
止めるためには、もう、自分がこの子を撃つしかない。
これが物語なら、撃った後、自分も一緒に死んであげたりするのだろうか。
銃口を構えようとする。
でも体に力が入らない。
自分が後を追ったところで、何が解決する?
世界は救えるかもしれない。
でも、本当の本音を言えば、世界より我が子が大事だ。
世界に絶望したのかもしれない我が子が、親から銃口を向けられて、それが最期の記憶になって…。
それは地獄だ。
でも、それでもこんな悪事…いや大虐殺を、その大罪を、我が子に背負わせるわけにはいかない…。
それをとめるのは親としての責任…。
いや、違う。
責任なんて建前だ。
思い出されるのは、我が子の笑顔。
今、頭に思い浮かぶのは理屈ではない。世間一般の正義ではない。合理性の欠片もない。
わからない。自分の心がわからない。
ひたすら思い出が浮かんでくる。
生まれたばかりの、そっと抱かないと壊れてしまいそうな、弱々しくも愛しい存在。
ぷくっとしたほっぺ、小さい手足、汚れのない目、ミルクの匂い。
小学校の入学式。大きすぎるランドセルを背負った姿を見て、嬉しさと不安でドキドキしたあの日。
月日を重ねるごとに、こちらがびっくりするくらい大人びていって…。
あの日々は、間違いではない。
育て方が悪かったと罵る人がいるかもしれない。もともと生まれ持った性質だと決めつける人がいるかもしれない。
でも、確かにあの日々は実在した。思い込みなんかではない。
この「本当はこんなことをする子じゃない」という心の叫びを、家族以外のだれが受け止めてくれるだろうか。
我が子の行いが悪ならば、我が子をこうさせた世界が悪いんじゃないか?
いや、私が悪いのだろうか。きっと私が悪い。子に罪があろうはずがない。
「撃てません!」と叫びたい。
今すぐ、我が子を抱きしめたい。
こうして逡巡している間に、息子がボタンを押せば私も世界と一緒に消える。もう、悩まなくて済む。
そう、ただ、間に合わなかっただけだ。
だけど…!!
止めないと、止めなければ。
そう、理性ではわかっている。
放っておいても息子は世界と一緒に消えるのだ。
一緒に消えてしまう世界には、私と同じように子どもを愛する人々がいる。家族がある。
わかっている。
ああ。
ああ。
でも、もしこれが他人の子供ならば、たぶん、私はすでに撃っているだろう。
いくら相手が子どもでも。いくら親の思いが頭によぎるとしても。
自分の家族とは引き換えにできない。
そんな考えが頭をよぎることに、吐き気がする。
…いや、本当は吐き気なんてしない。どうでもいい。
今、眼の前にいるのは、他人の子どもではないのだから。
いくらかでも、冷静に考えをまとめられる自分もいる。
その冷静さは、「撃ちたくない」気持ちからくるのかもしれない。
「間に合わない」を選ぼうとしているのかもしれない。
このままではいけない。
私は…自分の意志で、銃口を向けるか、そうしないのかを選択しなければならない。
止めることではない。受け入れることでもない。
選択に責任を持つのが親なのかもしれない。
あなたは、何を感じましたか?
あなたなら、どうしますか?




