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#2 手に汗にぎらない、タクティカルバトる

 先に動いたヅライムは、女騎士から少し距離をとってピタリと止まる。その場でバウンドを始めた。


「僕はどうすれば?」

「お前は後退しろ! 私はヅライムをやる!」


 自信ありげの女騎士が、ヅライムに向かって一歩前進。

 さきほど動いたヅライムは、移動する女騎士を目で追うだけで、じっとしている。


「次はお前の番だ。ヅライムは“弱そうなヤツ”を狙うだろう。一度離れてから防御体勢をとれ」


 交互に行動するという、ターン制バトルってやつか。

 ゲームとは違ってコマンド選択がないようだけど。


 行動権が移ったヅライムは、女騎士のほうへ移動した。


「なんでやねん!」


 ヅライムの予想外の動きに女騎士は驚いた様子。

 キョトンとした顔で力強く言葉をもらした。


「大丈夫ですか?」

「な、な、何を言っている。も、問題ない」


 女騎士は、ひきつり笑顔で声を震わせる。


「じゃ、お任せします」

「あ、いや。まあ、あれだ。私はヅライムが苦手でな。うむ。なんとかする……」

「いいんですよ、だれしも苦手なものがひとつやふたつありますって」

「お前はどうして半笑いなのだ?」


 キリっとした表情に戻った女騎士は、ヅライムから離れるように移動。


ヅライム(アフロ)の髪質は硬めだ。目に入ると結構いたいぞ。攻撃をうまくかわせ!」


 女騎士がムチャなことを言ってくる。

 思いのほか、ヅライムの動きは速かった。

 防具がほしいな。


「ダメ元で、呼んでみようか、空気嫁……」


 レンタロウは、川柳っぽいリズムで呟いた。


「空気の精霊よ! 我の盾となれ! 王に使い古された空気嫁。カタクリ子さん召喚!」


 うまくいったらしい。

 木の枝に引っ掛かっていた空気嫁のカタクリ子が、レンタロウの所にすっ飛んできた。


「この顔面偏差値『85』の美女はだれだ!」


 美女でもなければ人ですらないカタクリ子を見て、なにを言っているのだろうか、この女騎士(ひと)は……。


「空気嫁をおとりにして、その隙にヅライムを仕留めようかと」

「そうか。ときにパンイチのお前。とがったものを持っているか?」


 女騎士は軽い身のこなしでヅライムの攻撃をかわす。


 レンタロウが行動する番だ。

 尖ったものって、なんだろう……。

 若手時代のお笑い芸人かな?


 レンタロウは悪い頭をフル回転させる。

 そうだ。いいこと思いついた。

 ぽっかりと開いたカタクリ子の口に、直径5センチの光る泥ダンゴを装填した。


「その光る黒い玉はなんだ? ゆでタマゴか? ゆでた孫か?」

「どっちでもねぇよ! 光る泥ダンゴです。人形の口から音速でダンゴを発射してみようと思って」

「任せるとしよう。それはそうと、お前の鼻にもダンゴが詰まっていないか?」

「取れなくなっちゃったので……お構いなく……」

「そうか。では、“鼻チョコボール”の威力をみせてもらおう」


 あのボールの新商品か! ま、いいや……。


「ラブラドール・レトリボンバー!」


 レンタロウは、ヒザに爆弾を抱えた犬っぽいワザ名を叫んだ。

 カタクリ子のアホ毛を思い切り引っ張り、ヅライムめがけて光る泥ダンゴをぶっ放す。

 なぜか隣にいる女騎士に向かって、時速300キロでダンゴが飛んでゆく。


「がっ!」


 側頭部に光るダンゴを食らった女騎士は、何事もなかったように頭をさする。

 女騎士(変態)はノーダメージだった。


「ぁ……。僕のターンおわっちゃった……」


 レンタロウたちの攻撃ターンが終わり、行動権がヅライムに遷移。

 いままで静かに待機していたヅライムが、カタクリ子に攻撃をしかけてくる。


 ヅライムの体当たりを顔面にくらったカタクリ子。

 ポスッと軽い音を立て大きく後ろに吹き飛ばされた。


 攻撃を受け止めるタンクの役目をはたしたカタクリ子は、無表情ですぐに元いた場所に戻ってくる。


「そういえば、なんで騎士さんは武器を持ってないんです?」

「この世に武器など存在せん。グーだ。グー!」

「なんですと?」

「パンイチのオマエ、尖ったものでヅライムを刺せ!」

「反抗期の小学生とか?」


 さすがに持ってないな。尖った小学生なんて。

 使えそうなものは、ぜんぶ落としちゃったし。

 あるもので何とかするしかないか……。


 レンタロウは上着のポケットをまさぐり、ノック式ボールペンを取り出す。

 カチっとペン先を露出させ、攻撃準備を整える。


「動物性スライム(ヅライム)の弱点は、つむじだ!」


 ボールペンを初めて見たらしい女騎士が、突き刺す仕草をしてみせる。

 すぐに、ヅライムから逃げようと一歩後退。


「ごめんな。僕は戦いたくないんだよ……」


 レンタロウは、ヅライムのつむじめがけてボールペンを振り下ろす。

 ビュルっとヅライムから何か変なものが出てくると、鼻腔をくすぐる柑橘系のいい香りが広がった。


 ヅライムは、ボールペンが刺さったまま、カサカサと元気にカツラを揺らしている。


「もっと強く押し込め! カツラは防具ずら!」

「どこかの方言か!」


 レンタロウはボールペンをトンと押し、ヅライムの奥深くへと叩き込む。

 ボーナス・ターンだったらしい。2回行動できた。


 ヅライムは戦闘不能に陥ったようだけど、バトルは終わったのかな?

 疲労感に襲われたレンタロウは、額の汗をぬぐった。予備で持っていたブーメランパンツで。


「どうした?」


 レンタロウと同じように、女騎士が空を仰ぎ見る。


「モンスターを倒すと経験値をゲットできるんじゃ?」

「お前は何を言っている? そんなもの、ある訳がなかろう」

「なんてこった!」

「目に見えるものが全てではない。この戦闘が己の自信につながれば良いのではないのか?」

「ぱっと見で分からないは、少々不安というか、達成感がないというか……」

「経験値を数字で見たいということか? できなかったことができるようになった。その程度で充分だろ。ところで、ヅライムは研究のために持ち帰るが構わないか?」

「なんでスライムなんかを?」

「スライムは、いまだ解明されていない謎の部分が多い。種類も豊富でな。数百とも数千とも言われている」


 女騎士はボールペンを引っこ抜くと、レンタロウに投げ返す。

 慌てた様子でピュルっと汁があふれ出るヅライムの穴に指を突っ込んだ。


「なんか良い匂いがしますね」

「おそらくオレンジ味だろう。底にツブが沈んで厄介だが。案外イケるぞ。どうだ?」


 女騎士がヅライムのモジャモジャヘアーをワッシャとつかむ。

 戦国武将の首を取ったみたいに見せつけてくる。


「落ち武者を持ち帰って研究するんじゃ?」

「そうだったな。ちと急いでいる。私はこれで失礼するが――」


 女騎士が指笛を吹くと、どこからともなく2足歩行の何かがやってくる。

 白いミノタウロスだった。


 レンタロウは、がっかりした様子でボソッと呟く。

 そこは白馬だろ……。


「財布を落としたらしくて無一文なんですよね……行くあてもないし。僕を全力で養ってください!」

「断る! 働け! 仕事を探せ!」

「そうですか……。じゃあ、ラクな仕事を紹介してください。道に落ちてる軍手をひっくり返す仕事とかないですか? マリモを丸める作業でもOKです」

「ない。そんな目で見るな。街のハロワにでも行ってこい!」


 武器を持たない女騎士の言葉のキレ味は抜群だった。

 一方のレンタロウは、「刺身にタンポポを乗せる感じの仕事でもいいんですねぇ……」と、ぶつぶつ言っている。


「タンポンがどうした?」

「そんなこと言ってねぇよ! 変態騎士がぁ!」

「それで? お前はこれからどうするのだ?」


 ミノタウロスの背によじ登ると、女騎士が振り返る。


「さっきの続きをやろうかと……」

「野グ〇か?」

「ちがうわ! パンイチで疾走です!」

「好きにしろ。私は『ハミデール王国』にいる。困りごとがあったら訪ねてこい」

「僕は進行形で困ってるんですけど……」

「ふむ……そうだ、この先にスライムを栽培している少女がいる。仕事にありつけるかもしれんぞ。興味があるなら会いに行くといい。では、またな!」


 女騎士を背負ったミノタウロスが、颯爽(さっそう)と山の斜面を駆け上がる。

 女騎士のパンツが丸見えだ。

 後ろから見るとスゴイ絵面(えづら)になっている。


 とりあえず先へ進もう……。

 

 やっぱりここは異世界か。

 この先どうしようかなど、今は考えたくない。


 レンタロウ(パンタロウ)は、パンイチであてもなく走りだす。


 裸足で草を踏みしめるのは心地いい。

 全身で風を感じながら、パンタロウは無心で未知の世界を走り続けた。


「どうでもいいけど、画面が見づれぇ!」


 スマホに気を取られたパンタロウは、深い落とし穴に落ちた。


 シャチホコっぽい体勢になった彼が、穴の底でひとこと漏らす。


「危険です、走りスマホ……」


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