#1 月刊 女神通信(創刊号)
「奥義! 鼻ソニック!」
光る泥ダンゴを鼻の穴に詰めた高校生『レンタロウ』が、必殺ワザを発動する。
「ぁ……泥ダンゴが取れなくなっちゃった……」
彼は、とある山中で友人たちとサバイバルゲームをしていた。
狙撃手だった彼は、木の陰にジッと身を隠していたのだ。
敵はおろか味方にも発見されず、いまにいたる。
ヒマだったので、自作の光る泥ダンゴを鼻に詰めて遊んでいた。
泥ダンゴを音速で飛ばしてみようと思っていたが、鼻から飛び出る気配はない。
鼻がゴリゴリして痛い……。
こんな場所でゴリゴリしていても埒が明かないな。
少しだけど食料はある。
まだ陽も高いし、探索してみようか……。
レンタロウは、泥ダンゴを鼻に搭載したまま、その場を後にした――。
『女神で~す! レンタロウさん、ようこそ異世界へ! あれ? ぎゃぁぁ! 間違えて呼んぢゃった!』
という女性の声が、耳の奥で響いたかと思うと、周囲の景色が奇妙に伸びた__。
そのまま山道を進むと、平原が視界に飛び込んできた。
前方に見える小高い山がある以外、変わったものはない。
さっきから人の気配を感じるのは気のせいか。
だれかに見られているような、いないような……。
「ぎゃあ、半魚人の死体がっ!」
なんだ……人形か……。
チリチリ頭のラブドールだった。
木に引っ掛かった顔面偏差値『35』くらいのラブドールが、レンタロウを誘っている。
ドーナツのように大きく開いた唇には真っ赤なルージュ。
閉じたまぶたに水色のアイシャドウを引いた熱帯魚のような顔。
ちょっと微妙な女性の人形だ。
ラブドールというか、空気で膨らませる旧式の空気嫁?
新品だと4980円ってところか。
話しかけたら戦闘が始まりそうな雰囲気を醸し出す。
捨て猫ならぬ、捨てドールか。
要らね!
そっと、空気嫁を元の場所に戻した。
「ゴメンな。ウチで空気嫁は飼えないんだ……」
うす汚れた空気嫁には、手書きのメモが貼付されている。
空気嫁をウェットティッシュで丁寧に拭いながら、レンタロウはメモに目を通す。
タイトル:『月刊 女神通信 創刊号』
タキオカ・レンタロウさん屁(へ?)
アナタは、作曲家の『タキ・レンタロウ』さんと間違われてこの世界に召喚されました。
呼んだのは、ワタシなんですけどねっ!
国王が酔った勢いで「作曲家を呼んでみろ」とかムチャ振りしてきたんで、仕方なく……。
それでね……召喚の際、なまえ間違えちゃった!
ゴメンねぇ~
テヘ!
メガミより。
追伸(PS1):
誤召喚のお詫びに、王様が愛用していたお人形を差し上げます。
なまえは『カタクリ子DX』ちゃんです。
追伸(PS2):
カタクリ子ちゃんのアホ毛を引っ張ると、口から空気が噴射されます。
空気砲として使ってみてください。
“カタクリ砲”って呼んでもいいぞっ!
追伸(PS3):
カタクリ子ちゃんの防御力は、99万9998です。
レベルパンスト……。ん? カンスト寸前です!
レンタロウさんのスキル発表!
ずばり、『愛想笑い(レベル1)』です!
さあ、最弱から成り上がってくだされ(笑)
追伸(PS3・5):
付属のネグリジェを着せると、防御力+1になります。
空気をパンパンに入れて“防具”として可愛がってくださいね。
この子は使い込むほど進化します!
追伸(PS4):
タキ・レンタロウのマネで「ステータス、オープンぬっ!」 って叫んでみてください。
なにも表示されませんけどねっ!
追伸(PS4・5):
女神通信は、毎月1回発行!
なお、このメッセージは5・5秒後に“手動的”に消滅します。
追伸(PS5):
えっと……。
「なんか言えよ! 最後の追伸どうした?」
レンタロウは、メモにむかって突っ込みを入れる。
メモを読み終えて“5・5秒ぴったり”だった。
レンタロウは、クルクルにしたメモをファサっと草に叩きつける。
「追伸(PS)が5つって、プレステ5か!」
というか、“レベル1の愛想笑い”って、ゴミスキル?
ま、いいか……。
おっと、ゴミは持って帰らないとね。
シワを伸ばしたメモを、ズボンのポケットに押し込んだ。
これからどうしよう……。
変な人形以外、草原には人っこひとり見当たらない。
だれもいないなら、ちょうどいい。
アレを実践するときがきたか――。
“ヒャッハー!”と叫びながら、大草原で走りスマホをするのが夢だった。パンイチで。
16歳にもなって、僕は何をやっているんだ?
異世界にきたっぽいし、やるなら今しかない!
湧き上がる開放感とドキドキ感。
レンタロウは緑のじゅうたんの上で、衣服を脱ぎ捨てる。
なんか違う……。
シワにならないよう、上下の迷彩服を人型になるように置いてみた。
これで良し。
しゃがみこんだレンタロウは首を左右に振り、まわりを再確認する。
ホントに誰もいないよね?
「出席番号37番。パンイチのタキオカ・レンタロウ。略して『パンタロウ』。いきます! ヒャッ、は?」
新境地に足を踏み入れようとした時だ。
地響きが体に伝わってくる。
同時、遠くから女性の声が、レンタロウの耳に飛び込んできた。
「野グ〇をしようとしているそこのお前、早く逃げろ!」
緑色の鎧をまとった女性が、どえらい勢いで山の斜面を駆け下りている。
でかいバッタかと思ったが、レンタロウは確信した。痴女だ。
鎧からガーターベルトをむき出しにした金髪の女性が、個性的な動きでレンタロウの横を通り過ぎていった。
「なんでヨロイの下をつけてないの!」
男子校に通うレンタロウには刺激が強い。
さて、もうひと叫びしてみようかな……。
「超高速で阿波踊りをしたヘンタイがぁ!」
「私は踊り子ではない。痴女だ。いや、騎士だ! そんなことはいい。死にたくなければ全力で走れ!」
女騎士を追うように、大小さまざまな球体がボリンボリンと転がり落ちてくる。
大きさはバスケットボールほどか。その数、およそ3千。
色とりどりのガラス玉をぶちまけたような、キラッキラな光景が広がっていた。
レンタロウは反射的に服を拾い上げ、女性のあとを追った。
「でかいバッタみたいな痴女の騎士さん。何事ですか!?」
「黙って走れ。舌を噛むぞ!」
自分の舌を噛んだらしい女騎士。だあ! と叫びながらそのまま走り続けた。
しばらく進むと、口を押さえながら前方の岩を指でさす。
レンタロウは左側の岩陰へと入る。
女騎士は右側の岩に身を潜めた。
謎の球体が、レンタロウの頭上を越えていく。
「お菓子メーカーがふざけて作ったグミですか?」
なんだか柔らかそうな物体。
砂などが付着しているせいか、巨大なグミに見えて仕方ない。
「スライムだ。姿勢を低くしろ。顔にぶつかるぞ!」
顔面に数百のスライムがブチ当たっているため、女騎士の言葉には説得力がない。
鼻を押さえ、地面に八つ当たりをしている。
落ち着きを取り戻すと、パンイチのレンタロウに向きなおった。
「ケガはないか?」
こちらを見てくる女騎士の鼻から血が滴っている。
ほかとは明らかに違うスライムが遅れて転がってきた。
このままでは、岩から離れて全身むきだしの女騎士にぶつかってしまう。
レンタロウの心配をよそに、山の斜面に背を向けていた女騎士は、すぐさま振り返り、
「あまい! 見切った!」
スライムを打ち落とそうと裏拳を放つも、拳は虚しく空を斬る。
依然としてスライムを顔面で受け止める女騎士。
いい仕事しました感を出しながら、自慢気に親指を立てた。
間近でみると、やっぱりキレイな人だ。
アホっぽいけど。
そう考えながら、レンタロウは、女騎士を白眼視する。
「ん? ヅライムか?」
女騎士は、足元に転がるスライム(ヅライム)を凝視する。
「そのパンクな物体はなんですか?」
「動物性スライムだ。スライムには動物性と植物性があってな。アフロのカツラをかぶっているように見えるだろ? ヅライムと呼ばれているレアな動物性のスライムだ。その話はあとだ。お前も戦闘の準備をしろ!」
「なんですと?」
「動物性スライムに触れると戦闘が始まる」
「ってことは、触らなければ良かったってことですよね?」
「そうだが? 何か問題でも?」
開き直った女騎士の表情は、なんだか凛々しくみえる。
女騎士が険しい表情で見据える先には、アフロヘアーをかさかさ振りながら不敵に笑うヅライムの姿があった。
レンタロウは思わず身構える。
ピリピリとした雰囲気のなか、スライムとのバトルが始まった。




