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『銀座ママ、北条政子に転生す 〜善人なのに悪女と呼ばれたので、今日も鎌倉を籠絡させます〜』  作者: 双鶴


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第96話 見えない線が引かれる

和田義盛が沈黙を選んだ翌朝。


──鎌倉の空気は、昨日よりも重かった。


「和田殿は……まだ動かぬのか」

「義時殿は……大丈夫なのか」

「政子様は……どうされるのだろう」


(沈黙は、疑いよりも深く広がる)


義時が政子の屋敷へ現れた。

その顔には、疲労と緊張が刻まれていた。


「姉上……

 和田殿の屋敷に、

 “京の者らしき影”が出入りしているとの報せが……」


私は眉をひそめた。


(京……

 もう“直接”和田に触れ始めたのね)


「義時。

 和田はまだ決めていない。

 だからこそ──

 京は“押しに来た”のよ」


義時は拳を握った。


「姉上……

 和田殿を……

 どうすれば……」


「見張るのよ。

 ただし──

 “敵として”ではなく、

 “仲間として”」


義時は息を呑んだ。


「……難しい」


「難しいからこそ、

 あなたがやるのよ」



──政所。


御家人たちが集まっていた。

だが、昨日までのような怒号はない。


代わりに──

静かな“線”が引かれていた。


「義時殿の側につく」

「いや、和田殿の判断を待つべきだ」

「京の動きが気になる……」


声は小さい。

しかし、確実に分かれている。


(これが“割れ目”の始まり)


義時が前に出た。


「皆。

 和田殿はまだ鎌倉を裏切っていない。

 疑うのは早い」


しかし──

その言葉に反応したのは、

昨日とは別の御家人だった。


「義時殿。

 あなたの言葉は分かる。

 だが……

 “京の影”が和田殿に触れているのは事実だ」


空気が揺れた。


義時は言葉を失った。


(義時……

 あなたは“正しさ”で戦おうとしている。

 でも今必要なのは“空気を変える力”)


私は前に出た。


「皆。

 和田殿は揺れている。

 でも──

 揺れている者を突き放せば、

 必ず“京の側”へ落ちるわ」


御家人たちの視線が集まる。


「だからこそ、

 今は“支える”時よ。

 疑いではなく、

 信じることで引き戻すの」


義村が息を呑んだ。


「政子様……

 それは……

 和田殿を“味方に戻す”ということか」


「ええ。

 鎌倉は、

 “仲間を切り捨てる”ことで強くなるのではない。

 “仲間を戻す”ことで強くなるのよ」


空気が変わった。


義時が深く頭を下げた。


「皆……

 和田殿を信じてほしい。

 私も、政子様も、

 彼を見捨てるつもりはない」


御家人たちの表情が、

少しずつ柔らかくなっていく。


(よし……

 “割れ目”は広がらずに済んだ)



──その頃、和田義盛の屋敷。


義盛は、

京からの密書を前に、

深く息を吐いていた。


「……政子様は、

 私を信じると言った」


そこへ、

黒い影が現れた。


「和田殿。

 院よりの“次の言葉”を伝えに参った」


義盛の目が揺れた。


「……次の言葉……?」


影は静かに言った。


「“北条を離れよ。

 さすれば、和田の家は守られる”」


義盛は拳を握った。


(京は……

 本気で私を引き抜きに来たのか)


影は続けた。


「“義時と政子は、

 いずれ鎌倉を滅ぼす”

 院はそう仰せです」


義盛の呼吸が乱れた。


「……私は……

 どうすれば……」


影は微笑んだ。


「答えは、

 あなたの中にございます」


影が去った後、

義盛は動けなかった。


(和田義盛……

 あなたは今、

 “鎌倉の未来”を左右する場所に立っている)



──夜。


政子は灯りの下で筆を取った。


(頼朝さん……

 鎌倉は今、

 見えない線で分かれ始めている)


筆が走る。


「……和田義盛。

 この男の決断が、

 鎌倉の命運を変える」


政子は筆を置いた。


静かに、

しかし確かに──

鎌倉の底が鳴り続けていた。


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