第93話 京の矢、政子へ向かう
京の密命が鎌倉に落ちて四日目。
──空気が変わった。
昨日までの“義時への疑い”が、
今日は“政子への不安”へと形を変えていた。
「政子様は……京と争うおつもりなのか」
「北条が前に出すぎている」
「鎌倉は……どこへ向かう……?」
(京の狙い通りね。
“次の標的”は私)
義時が屋敷へ飛び込んできた。
「姉上……!
京が……
“政子様を呼び出せ”と
言い始めました……!」
私は眉をひそめた。
(来た……
京の“第二の刃”)
「義時。
京は私を鎌倉から引き離したいのよ」
義時は息を呑んだ。
「姉上を……?」
「ええ。
私がいなければ、
鎌倉は一気に割れる」
義時の表情が変わった。
怒りと焦りが混ざった、
これまでにない顔。
「姉上を……
京に渡すわけにはいきません」
(義時……
あなたが“守る側”に回った瞬間ね)
*
──政所。
京からの新たな文が届いていた。
「“政子、上洛せよ”
院の御意である」
御家人たちがざわつく。
「政子様を……京へ……?」
「これは……危険すぎる……!」
「だが……逆らえば朝敵に……!」
義時が前に出た。
「政子様を京に渡すことはない。
鎌倉は鎌倉で守る」
しかし──
その言葉に反応したのは、
昨日揺れた三浦ではなかった。
別の家が動いた。
「しかし義時殿……
京の命に逆らえば、
鎌倉は“朝敵”とされるのでは……?」
空気が凍る。
(来た……
“第二の裏切りの芽”)
私は一歩前に出た。
「皆。
京が私を呼ぶ理由はただ一つよ」
御家人たちの視線が集まる。
「“鎌倉を割るため”。
私を鎌倉から引き離し、
義時を孤立させるためよ」
義村が息を呑んだ。
「つまり……
京は政子様を人質に……?」
「そう。
そして鎌倉を内部から崩すつもり」
御家人たちの空気が変わった。
義時が強い声で言った。
「政子様は鎌倉の“光”だ。
京に渡すわけにはいかない」
(義時……
あなたの声が、
ようやく“光”になり始めた)
私は義時の隣に立った。
「皆。
京の命令に従う必要はない。
鎌倉は鎌倉で決める」
御家人たちの表情が変わった。
「政子様……」
「北条が……鎌倉を守る……?」
「ならば……従うしかない……」
空気が、
再び“鎌倉の側”へ戻っていく。
(よし……
“第二の芽”も、ひとまず抑えた)
*
──その頃、京。
後鳥羽院は報告を聞き、
静かに笑った。
「政子は……
まだ折れぬか」
侍従が言った。
「鎌倉は政子様と義時殿が
互いを支えているようです」
後鳥羽院は扇を閉じた。
「ならば──
次は“二人の間”を裂く」
行成は息を呑んだ。
(政子殿……
京は本気であなたを壊しに来る)
*
──夜。鎌倉。
私は灯りの下で筆を取った。
(頼朝さん……
あなたの死は、
京を動かし、
鎌倉を揺らし、
義時を“光”に変えつつある)
筆が走る。
「……京は次に“義時と政子の絆”を狙う」
私は静かに笑った。
──悪女は、
狙われるほど強くなる。
そしてこの日、
**京は政子を呼び出し、
鎌倉を割るための“第二の刃”を放った。




