第92話 裏切りの芽、静かに芽吹く
京の密命が鎌倉に落ちて三日目。
──空気が変わった。
喪の静けさはまだ残っている。
だが、その下で“疑い”が形を持ち始めていた。
「義時殿は京に睨まれている」
「政子様は……どう動くのか」
「鎌倉は……割れるのか……?」
(京の狙い通りね。
“揺らぎ”は、もう町に根を張った)
義時が政子の屋敷へ駆け込んできた。
「姉上……!
御家人の中に……
“京につくべきだ”と言い出す者が……!」
私は即座に立ち上がった。
「名前は?」
義時は苦い顔をした。
「……三浦の一部です」
(来た……
三浦は“最初に揺れる”家)
私は深く息を吸った。
「義時。
これはもう“噂”じゃない。
“裏切りの芽”よ」
義時の目が鋭くなる。
「姉上……
どう動くべきでしょう」
「簡単よ。
“芽”は、芽のうちに摘む」
*
──政所。
三浦の一派が集まっていた。
その空気は、昨日までとは違う。
「京は義時殿を朝敵と見ている」
「鎌倉が朝敵とされれば……我らも巻き込まれる」
「ならば……京につくべきでは……?」
義時が前に出た。
「三浦。
お前たちは……
鎌倉を捨てる気か」
三浦の男が言った。
「義時殿。
我らは鎌倉を守りたい。
だが……
京を敵に回すのは危険すぎる」
義時の拳が震えた。
「私は……
鎌倉のために働いてきた……!」
三浦は静かに言った。
「それは分かっている。
だが──
“京が義時殿を敵と見ている”
それが問題なのだ」
(京の“影の論理”が効き始めた)
私は前に出た。
「三浦。
あなたたちの不安は理解するわ」
三浦の視線が集まる。
私は続けた。
「でも──
京についた瞬間、
あなたたちは“鎌倉の裏切り者”よ」
空気が止まった。
「京はあなたたちを守らない。
利用して、捨てるだけ」
三浦の男が息を呑む。
「政子様……
それは……」
「事実よ。
京は“北条を揺らすために”あなたたちを使う。
あなたたちの命なんて、
京にとっては“駒”にすぎない」
三浦の表情が変わった。
義時が静かに言った。
「三浦。
私はお前たちを信じている。
だから……
鎌倉に残ってほしい」
三浦は目を閉じた。
「……政子様。
義時殿。
我らは……
鎌倉につきます」
(よし……
“裏切りの芽”は、ひとまず摘んだ)
*
──その頃、京。
後鳥羽院は報告を聞き、
静かに笑った。
「三浦は揺れたか。
だが……
まだ折れていない」
侍従が言った。
「鎌倉は政子様が義時殿を支えているようです」
後鳥羽院は扇を閉じた。
「ならば──
次は“政子”を揺らす」
行成は息を呑んだ。
(政子殿……
あなたの光は、
京を本気にさせてしまった)
*
──夜。鎌倉。
私は灯りの下で筆を取った。
(頼朝さん……
あなたの死は、
京を動かし、
鎌倉を揺らし、
裏切りの芽を生んだ)
筆が走る。
「……京は次に“政子”を狙う」
私は静かに笑った。
──悪女は、
狙われる瞬間こそ強くなる。
そしてこの日、
**鎌倉の内部に“裏切りの芽”が生まれ、
京は次の標的を“政子”へと定めた。




