第80話 光の終わり、光の始まり
頼朝の容態が悪化して四日目。
鎌倉の空気は、
まるで世界が息を潜めているようだった。
「鎌倉殿……今夜が峠らしい」
「政子様がずっと付き添っているとか……」
「北条殿も……顔色が優れぬ……」
(そう……
町の声が弱い。
光が沈む時の声)
義時が政子の屋敷へ駆け込んできた。
「姉上……!
鎌倉殿の容態が……
“急変”しました……!」
私は息を呑んだ。
「行きましょう」
*
──頼朝の館。
部屋に入ると、
頼朝は枕元で浅い呼吸を繰り返していた。
昨日よりも、
明らかに弱い。
その姿は、
まるで光が消えかけているようだった。
「政子……
来てくれたか……」
私はそばに座り、
頼朝の手を握った。
「頼朝さん……
しっかりして……」
頼朝はかすかに微笑んだ。
「政子……
私は……
お前に……
出会えて……
よかった……」
その声は、
まるで風のように弱かった。
医師が小声で言った。
「政子様……
鎌倉殿は……
今夜が……
最後かもしれませぬ」
義時が震えた。
「最後……!?
医師殿……
そんな……!」
医師は首を振った。
「鎌倉殿は……
もう……
力を使い果たしておられます」
(そんな……
頼朝さん……
まだ……
まだ終わらないで……)
頼朝は私の手を強く握った。
「政子……
鎌倉を……
頼む……
お前なら……
できる……」
私は涙をこらえた。
「頼朝さん……
あなたがいない鎌倉なんて……
考えられない……」
頼朝は目を閉じた。
「政子……
お前が……
光だ……」
その瞬間、
頼朝の手から力が抜けた。
「頼朝さん……!
頼朝さん……!」
医師が駆け寄る。
「政子様……!
まだ息はあります……!
しかし……!」
義時が震える声で言った。
「姉上……
鎌倉殿は……
もう……!」
私は頼朝の手を握りしめた。
(頼朝さん……
あなたの光が……
消えようとしている……)
*
──館を出た後。
義時は深刻な顔で言った。
「姉上……
鎌倉殿が倒れれば……
鎌倉は……
空気そのものが崩れます」
私は静かに頷いた。
「ええ。
でも──
崩れた空気は、
“作り直せばいい”」
義時は息を呑んだ。
「姉上……
あなたは……
もう覚悟を……?」
私は義時を見つめた。
「義時。
頼朝さんの光が沈むなら──
次の光は、
私たちが作るのよ」
義時の目に、
強い光が宿った。
「姉上……
私は……
あなたと共に……
鎌倉を守ります」
(義時……
あなたの覚悟が、
これからの鎌倉を支える)
*
──夜。
私は灯りの下で筆を取った。
(頼朝さん……
あなたの光は沈みつつある。
でも──
光が沈む時、
新しい光が生まれる)
筆が走る。
「……鎌倉は変わる」
私は静かに笑った。
──悪女は、
光の終わりを恐れず、
光の始まりを見つめる。
そしてこの日、
**頼朝の光は沈み、
政子と義時の“新しい光”が生まれ始めた。**




