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『銀座ママ、北条政子に転生す 〜善人なのに悪女と呼ばれたので、今日も鎌倉を籠絡させます〜』  作者: 双鶴


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第73話 鎌倉に落ちる、最初の影

京からの使者が鎌倉へ到着したのは、

朝靄がまだ町を覆っている頃だった。


使者は静かに政所へ向かい、

誰にも気づかれぬように

数通の文を渡していった。


(京の影は、

 いつも静かに落ちる)



──政所。


義時は朝の政務を終え、

文を整理していた。


そこへ、

見慣れぬ封の文が置かれているのに気づいた。


「……これは……?」


封には、

朝廷の紋。


義時は眉をひそめた。


(行成殿が帰ったばかりだというのに……

 なぜ朝廷から……?)


文を開こうとした瞬間、

廊下の向こうで声がした。


「義時殿……

 朝廷からの文が届いたと聞いたが……?」


振り返ると、

義村が立っていた。


義時はわずかに警戒した。


「義村殿……

 なぜそれを?」


義村は肩をすくめた。


「鎌倉は狭い。

 噂はすぐに広まる」


(噂……?

 誰が……?)


義時は胸の奥に、

小さな違和感を覚えた。


「義村殿。

 これはまだ開いていない。

 内容も分からぬ」


義村は笑った。


「ならば、

 俺が先に読んでやろうか?」


義時は静かに文を握りしめた。


「……遠慮しておこう」


義村は笑みを浮かべたまま、

しかしその目はどこか探るようだった。


(義村……

 あなた、何か知っているのか……?)



──その頃、別の屋敷。


義盛のもとにも、

同じ封の文が届いていた。


義盛は文を開き、

眉をひそめた。


「……北条義時、朝廷に背く……?」


家人が震えた声で言う。


「義盛殿……

 これは……

 義時殿を疑えということでしょうか……?」


義盛は拳を握った。


「馬鹿な……

 義時殿が朝廷に背くはずがない……!」


だが──

文の最後に書かれた一文が、

義盛の心を揺らした。


“鎌倉の乱れは、北条にあり”


(……これは……

 鎌倉を割るための文……!)


義盛は立ち上がった。


「政子様に知らせねば……!」


しかし──

その足は、

なぜか政子の屋敷ではなく、

義村の屋敷へ向かっていた。


(義盛……

 あなたも揺れたのね)



──さらに別の屋敷。


重忠のもとにも、

同じ文が届いていた。


重忠は静かに文を読み、

深く息を吐いた。


「……これは……

 鎌倉を揺らすための“影”だ」


家人が言った。


「重忠殿……

 どうされます……?」


重忠は文を握りしめた。


「政子様に……

 いや……

 義時殿に直接会うべきか……」


しかし──

重忠の心にも、

小さな影が落ちていた。


(なぜ……

 朝廷は義時殿を……?)



──政子の屋敷。


義時が文を開こうとした瞬間、

侍女が駆け込んできた。


「政子様……!

 義村殿、義盛殿、重忠殿が……

 “義時殿について話したい”と……!」


私は静かに息を吸った。


(来たわね……

 “京の影”が)


義時は驚いた。


「姉上……

 なぜ皆が……?」


私は文を見つめた。


「義時。

 その文は開かなくていいわ」


義時は目を見開いた。


「姉上……?」


私は静かに言った。


「京は……

 あなたを揺らしに来たのよ」


義時の手が震えた。


「私を……?」


「ええ。

 “北条を揺らせば、鎌倉は揺れる”

 京はそう考えている」


義時は息を呑んだ。


「姉上……

 では……

 この文は……?」


私は静かに答えた。


「“影”よ。

 鎌倉を割るための」


義時は文を見つめた。


その封は、

まだ開かれていないのに──

すでに鎌倉を揺らし始めていた。



──夜。


私は灯りの下で筆を取った。


(後鳥羽院……

 あなたは“北条”を狙ったのね)


筆が走る。


「……影は静かに広がる」


私は静かに笑った。


──悪女は、

影の広がりを見逃さない。


そしてこの日、

**京の密書が鎌倉に落ち、

義時の周囲に“最初の影”が広がり始めた。**


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