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『銀座ママ、北条政子に転生す 〜善人なのに悪女と呼ばれたので、今日も鎌倉を籠絡させます〜』  作者: 双鶴


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第69話 行成、敗北を抱えて京へ帰る

翌朝。

鎌倉の空気は、昨日とは違う静けさに包まれていた。


「行成殿が……帰る支度をしているらしい」

「朝廷への報告は……どうなる……?」

「鎌倉は……政子様の光で満ちている……」


(そう。

 もう“影”は鎌倉に馴染まない)


侍女が駆け込んできた。


「政子様……!

 行成殿が……

 “最後に政子殿に挨拶をしたい”と……!」


私は静かに頷いた。


「通してあげて」



──政子の屋敷。


行成は、

昨日までの“京の権威”をまとった姿ではなかった。


背筋は伸びているのに、

どこか影が薄い。

敗北を受け入れた者の静けさ。


「政子殿……

 私は……京へ戻ります」


私は静かに言った。


「ええ。

 あなたの帰る場所は京だもの」


行成は苦笑した。


「政子殿……

 あなたは……

 私の“影”をすべて見抜いた」


「影は光があれば形が見えるものよ」


行成は深く息を吐いた。


「私は……

 朝廷のために鎌倉を揺らしたつもりでした。

 しかし……

 揺れたのは私自身でした」


(ああ……

 あなたは本当に“孤独”だったのね)


行成は続けた。


「政子殿。

 あなたは……

 鎌倉殿の心を握っているのではなく、

 “支えている”のですね」


私は微笑んだ。


「支えるのは、

 隣に立つ者の役目よ」


行成は目を伏せた。


「京には……

 その“隣に立つ者”がいない。

 皆、誰かを利用し、

 誰かに利用される」


私は静かに言った。


「だからあなたは、

 頼朝さんを京へ戻したかったのね。

 “必要とされる自分”になるために」


行成は震える声で言った。


「政子殿……

 私は……

 京で……

 誰にも必要とされていないのです」


(その言葉が、あなたの核心)


私は一歩近づいた。


「行成殿。

 あなたは必要とされているわ。

 “京の影”としてではなく──

 “京の目”として」


行成は顔を上げた。


「京の……目……?」


「ええ。

 あなたは見てきたでしょう?

 鎌倉の光を。

 それを京へ持ち帰るのよ」


行成の目に、

初めて“希望”の色が灯った。


「政子殿……

 私は……

 鎌倉を敵として見ていました。

 しかし今は……

 あなたを……

 敬意をもって見ております」


私は静かに言った。


「敬意は、

 影を光へ変える第一歩よ」


行成は深く頭を下げた。


「政子殿。

 私は京へ戻り、

 “鎌倉は揺れていない”と伝えます。

 “政子殿がいる限り、揺れぬ”と」


(ああ……

 頼朝さんの言葉を、

 あなたの口から聞くとはね)


行成は背を向けた。


「政子殿。

 また会う日が来るかもしれません。

 その時は……

 今日の私とは違う私でありたい」


私は静かに言った。


「ええ。

 その時は“影”ではなく、

 “人”として来なさい」


行成は小さく笑った。


「政子殿……

 あなたは……

 光だ……」


そして行成は、

静かに鎌倉を去った。



──夜。


私は灯りの下で筆を取った。


(行成。

 あなたは影だった。

 でも──

 影は光を知れば、形を変える)


筆が走る。


「……京が動く」


私は静かに笑った。


──悪女は、

影を送り返し、

次の影を待つ。


そしてこの日、

**行成は敗北を抱え、

しかし新しい目を持って京へ帰った。**


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