第64話 政子、揺れた三人を“光で包む”
行成が御家人たちの心を揺らした翌朝。
鎌倉の空気は、
昨日までの静けさとは違う、
“ざわり”とした揺れを含んでいた。
「義村殿が……何か考え込んでいるらしい」
「義盛殿は……苛立っているとか……」
「重忠殿も……沈んだ顔をしていた……」
(ええ。
行成の“影”が残っている)
侍女が駆け込んできた。
「政子様……!
三人とも……
政子様にお会いしたいと……!」
私は静かに頷いた。
(来たわね。
“揺れの処理”)
「順番に通してあげて」
侍女は驚いた。
「順番……ですか……?」
私は微笑んだ。
「揺れはね、
“一度に整える”より、
“一人ずつ光を当てる”方が早いのよ」
*
──最初に来たのは義村。
義村は腕を組み、
いつもの軽薄な笑みを作ろうとして──
作れずにいた。
「政子様……
行成殿が……
“北条が強すぎる”と……」
私は静かに言った。
「義村。
あなたは“北条の影”に隠れるほど小さくないわ」
義村の目が揺れた。
「……政子様……?」
「あなたは“義村”として見られている。
北条の下でも、上でもなく──
“義村”として」
義村は息を呑んだ。
(そう。
義村は“個として認められる”ことに弱い)
私は続けた。
「あなたは北条の影に隠れていない。
“鎌倉の光の一部”よ」
義村は顔を赤くした。
「政子様……
お、俺は……
そんな大層な……」
「ええ。
あなたは大層よ」
義村は完全に揺れが消えた。
(はい、一人目完了)
*
──次に来たのは義盛。
義盛は怒りを隠さず言った。
「政子様!
行成殿は……
“政子殿は武士を軽んじている”と……!」
私は静かに言った。
「義盛。
あなたは“武士の誇り”を守る男よね」
義盛は胸を張った。
「当たり前だ!」
私は微笑んだ。
「だからこそ──
私はあなたを信じているのよ」
義盛の怒りが一瞬で消えた。
「……政子様……
俺を……信じて……?」
「ええ。
あなたの誇りは、
鎌倉の誇りよ」
義盛は涙をこらえるように顔をそむけた。
「政子様……
俺は……
そんな言葉を……
京の公家からは言われたことがない……!」
(そう。
義盛は“誇りを認められる”と一気に光へ戻る)
(はい、二人目完了)
*
──最後に来たのは重忠。
重忠は静かに頭を下げた。
「政子様……
私は……
揺れてしまいました」
私は静かに言った。
「重忠。
あなたは揺れてもいいのよ」
重忠は驚いた。
「……よいのですか……?」
「揺れるのは、
“誇りがある証”よ」
重忠の目が揺れた。
「政子様……
私は……
武士として……
正しくありたいだけなのです」
私は頷いた。
「ええ。
だからこそ──
あなたは正しいわ」
重忠は深く息を吐いた。
「政子様……
私は……
あなたの言葉で……
また立てます」
(はい、三人目完了)
*
──三人が去った後。
義時が駆け込んできた。
「姉上……!
三人とも……
晴れやかな顔で帰っていきました……!」
私は静かに言った。
「ええ。
揺れは整ったわ」
義時は震えた。
「姉上……
あなたは……
御家人たちの心を……
“光で包んだ”のですね……!」
(そう。
影には光を当てるのが一番)
*
──その頃、行成の宿。
従者が言った。
「殿……
御家人たちの揺れが……
消えております……!」
行成は目を閉じた。
「……政子殿は……
揺れを“光”で消す女か……」
(あら、気づいたのね)
*
──夜。
私は灯りの下で筆を取った。
(行成。
あなたが揺らした三人は、
もう揺れていない)
筆が走る。
「……次は“公開戦”」
私は静かに笑った。
──悪女は、
揺れた心を一つずつ光で包む。
そしてこの日、
**政子は義村・義盛・重忠の揺れを完全に整え、
行成の“内部戦”を無効化した。**




