第6話 銀座ママ、火種を消しに行って火柱を立てる
亀の前と話してから数日。
鎌倉の空気は、妙にざわついていた。
「政子様……最近、鎌倉殿が亀の前様の御殿に通われておられるとか……」
侍女が怯えた声で告げる。
(ああ、そういう時期なのね)
銀座でもよくあった。
“奥様と愛人が接触した後、旦那が気まずくて愛人の方に逃げる”という現象。
私は深く息をついた。
「……亀の前さん、大丈夫かしら」
侍女たちは青ざめた。
「政子様!? まさか……また会いに行かれるおつもりで……!?」
「ええ。心配だから」
「ひぃっ……!」
(なんで悲鳴なのよ)
どうやらこの世界では、
**“心配する”=“報復に行く”**
と変換されるらしい。
*
亀の前の御殿に向かうと、
彼女は部屋の隅で膝を抱えていた。
「政子様……」
その顔は泣き腫らしている。
私はそっと隣に座った。
「どうしたの?」
「鎌倉殿……最近、私のところに来られても……
ずっと黙っていて……
まるで、私が悪いことをしたみたいで……」
(あー……完全に“気まずい男”ムーブね)
私は優しく彼女の背を撫でた。
「あなたは悪くないわ。
ただ、頼朝さんが不器用なだけよ」
亀の前は涙をこぼした。
「政子様……どうしてそんなに……優しいのですか……」
「優しいんじゃないわ。
あなたが、誰かに優しくされるべき人だからよ」
銀座で何度も言ってきた言葉だった。
亀の前は泣きながら私に抱きついた。
その瞬間──
廊下の向こうで、侍女たちの悲鳴が上がった。
「み、見ましたか……!
政子様が亀の前様を“完全に支配”しておられる……!」
「なんという……恐ろしい……!」
(いやいやいやいや!!)
私は心の中で全力で否定した。
だが、誤解は止まらない。
侍女たちは震えながら走り去り、
その噂は瞬く間に鎌倉中へ広がった。
──政子、亀の前を泣かせて屈服させる。
(違うってば!!!)
*
その日の夕方。
義時が血相を変えて駆け込んできた。
「姉上!! 大変です!!」
「どうしたの?」
「鎌倉殿が……激怒しておられます!!
“政子が亀の前を泣かせた”と……!」
(いや、泣かせたのは私じゃなくて頼朝の不器用さなんだけど)
義時は青ざめて続けた。
「鎌倉殿は……
“亀の前の御殿を壊す”と……!」
(……あー……来たわね、歴史イベント)
私は立ち上げった。
「止めに行くわ」
義時は震えた。
「姉上……!
鎌倉殿を止めるなど……命がいくつあっても足りません!!」
「大丈夫よ。銀座で似たような修羅場、何度も経験したわ」
「銀座とは違います!!」
(いや、意外と似てるのよ……)
私は静かに言った。
「義時。
誰かが止めなきゃ、もっと大変なことになるわ」
義時は息を呑んだ。
「……姉上……
あなたは……本当に……」
「悪女?」
「い、いえ……
恐ろしく……頼もしいお方です……!」
(褒められてるのか怖がられてるのか、どっちよ)
私はため息をついた。
──善意で動いているだけなのに、
なぜか“悪女”扱いが加速していく。
でも、いい。
誤解されても、嫌われても、
私は今日も誰かの心を救う。
銀座ママ流に。
そして私は、
**暴走する頼朝を止めるため、
亀の前の御殿へと走り出した。




