第52話 頼朝、“政子は鎌倉の柱だ”と宣言する
評定の間は、
張り詰めた弦のように静まり返っていた。
比企能員の“最後の策”は、
政子によって完全にひっくり返された。
だが──
能員はまだ立っていた。
「政子殿……
あなたは強い。
だが……
強さだけで鎌倉は守れぬ」
(まだ言うのね。
でも、ここで終わりよ)
その時だった。
頼朝が一歩、前へ出た。
空気が一瞬で止まる。
「能員。
お前の言葉は……
もう聞き飽きた」
能員の顔が強張った。
「鎌倉殿……?」
頼朝は政子の横に立った。
(ああ……
この立ち位置。
“政子の隣”に立つ頼朝さんは、
本気の時だけ)
頼朝は静かに言った。
「政子は……
鎌倉の柱だ」
空気が震えた。
「鎌倉の……柱……?」
「頼朝様が……!」
「ついに……!」
能員は震えた声で言った。
「鎌倉殿……
しかし……
政子殿は強すぎます……
御家人たちの声が……」
頼朝は遮った。
「政子は御家人の声を聞く。
お前よりも、誰よりもだ」
能員は言葉を失った。
頼朝は続けた。
「宗員の偽文書。
御家人の不安を煽る影の策。
すべて……
お前の仕業だ」
能員の顔から血の気が引いた。
「……鎌倉殿……
それは……!」
頼朝は冷たく言った。
「能員。
お前は“鎌倉のため”ではなく、
“比企のため”に動いた」
御家人たちがざわつく。
「比企のため……?」
「やはり……」
「政子様の言った通り……!」
能員は震えた。
「鎌倉殿……
私は……
ただ……!」
頼朝は言い放った。
「政子を貶め、
鎌倉を揺らし、
影で空気を乱した。
その罪は重い」
能員は膝をついた。
「鎌倉殿……
お許しを……!」
頼朝は静かに言った。
「許すかどうかは──
政子が決める」
空気が一気に政子へ向いた。
(ああ……
この瞬間。
空気が“私を中心に回る”瞬間)
私はゆっくりと能員の前へ歩いた。
能員は震えていた。
「政子殿……
私は……
私は……!」
私は静かに言った。
「能員。
あなたは影として動いた。
でも──
影は光に勝てない」
能員は崩れ落ちた。
「政子殿……
私は……
敗れたのか……?」
私は頷いた。
「ええ。
あなたの影は、
ここで終わりよ」
能員は目を閉じた。
「……政子殿。
あなたは……
恐ろしいほど強い……」
(それは褒め言葉として受け取るわ)
私は背を向けた。
「能員。
あなたの策はすべて光に晒された。
もう影には戻れない」
頼朝が言った。
「政子。
これで……
第二章は終わりだ」
私は静かに頷いた。
(ええ。
でも──
次はもっと大きな影が来る)
*
──夜。政子の屋敷。
私は灯りの下で筆を取った。
(比企能員。
影の本体。
でも──
影は光に焼かれた)
筆が走る。
「……次は“京”」
私は静かに笑った。
──悪女は、
影を焼き尽くした後、
次の影を探しに行く。
そしてこの日、
**頼朝が政子を全面支持し、
比企能員は敗北した。**




