第5話 銀座ママ、義時に“恐れられながら惚れられる”
頼朝との対話から数日後。
私は、鎌倉の空気が少しだけ変わったことに気づいていた。
──視線が増えた。
侍女たちのひそひそ話。
御家人たちの探るような目。
そして、妙に距離を取る者たち。
(……あら。完全に“要注意人物”扱いね)
銀座でもあった。
有能すぎると、周囲は勝手に怖がる。
そんな中、侍女が慌てて駆け込んできた。
「政子様! 北条義時様がお見えです!」
義時。
政子の弟であり、後に“執権”として歴史に名を残す男。
私は姿勢を正した。
*
義時は、静かに部屋へ入ってきた。
若いが、目が鋭い。
観察力が高く、警戒心も強い。
銀座で言えば──“社長の右腕タイプ”。
「姉上。お加減はいかがですか」
丁寧な言葉だが、声は硬い。
完全に“探り”を入れている。
私は微笑んだ。
「ええ、元気よ。心配してくれてありがとう」
義時の眉がわずかに動いた。
(あら、この子……褒められ慣れてないわね)
銀座ママの観察眼が働く。
義時は続けた。
「……鎌倉殿とのご関係が、最近……変わられたとか」
(あー、噂になってるのね)
私は落ち着いて答えた。
「変わったというより、少し話をしただけよ」
義時の目が細くなる。
「姉上。鎌倉殿を“動かした”と聞きました」
(動かしたって……ただ話しただけなんだけど)
私は苦笑した。
「義時。人は、話せば変わるものよ」
義時は完全に固まった。
「……姉上。
鎌倉殿を“話しただけで変えられる”など……
そんなことが、あるはずが……」
(あるのよ、銀座ではね)
私は優しく言った。
「あなたも、話せば変わるわよ?」
義時の顔が一瞬で赤くなった。
「な、なにを……!」
(かわいい)
銀座ママの目には、義時が“素直で不器用な弟”にしか見えない。
だが──
廊下の侍女たちの反応は違った。
「聞いた!? 政子様、義時様まで掌握なさったわ……!」
「なんという……恐ろしい……!」
(いやいやいや!!)
私は心の中で全力で否定した。
義時は咳払いをして、無理に冷静を装った。
「……姉上。
鎌倉は、今……不安定です。
鎌倉殿の周囲には、敵も多い」
その声は真剣だった。
私は静かに頷いた。
「だからこそ、あなたが支えてあげて。
あなたは、頼朝にとって“必要な人”よ」
義時は息を呑んだ。
「……姉上は……どうして……
そんなふうに……」
「見ればわかるわ」
義時は完全に固まった。
(あら、また褒められ慣れてない反応)
銀座ママの“人を見る目”は、鎌倉でも無双だった。
義時は深く頭を下げた。
「……姉上。
私は……あなたを侮っていました。
どうか……これからも鎌倉殿を……」
その瞬間、廊下の侍女たちが震え上がった。
「見た!? 義時様が政子様に頭を下げた……!」
「政子様……鎌倉を動かしておられる……!」
(違うってば!!!)
私は天を仰いだ。
──善意で話しただけで、また“悪女”扱い。
でも、義時の目は変わっていた。
警戒から、信頼へ。
恐れから、尊敬へ。
そして少しだけ──
惹かれ始めている。
銀座でもよくあった。
“有能な女性に惹かれる男”の目だ。
私は小さく息をついた。
「……誤解されるのは慣れてるわ。
でも、あなたたちを支えるのは、嫌いじゃない」
義時は顔を赤くしたまま、深く頭を下げた。
「姉上……どうか、これからも……」
私は微笑んだ。
「ええ」
こうして私は、
**義時からも“恐れられながら惚れられる”存在**
になってしまった。
誤解されても、嫌われても、
私は今日も誰かの心を救う。
銀座ママ流に。




