第47話 比企宗員、評定で自滅する
翌朝の評定。
御家人たちはざわついていた。
「今日は政子様が来るらしい……」
「比企宗員殿も呼ばれたとか……」
「何かが起きる……」
(ええ、起きるわよ。
“影”が光に焼かれる瞬間が)
私は静かに評定の間へ入った。
空気が一瞬で止まる。
「政子様だ……」
(この“止まり方”が一番動かしやすい)
*
比企宗員は、
明らかに顔色を失っていた。
しかし、
彼は最後の虚勢を張った。
「政子殿……
なぜ私を呼んだのです……?」
私は静かに言った。
「あなたが“影の中心”だからよ」
評定の空気が揺れた。
「影……?」
「中心……?」
「宗員殿が……?」
宗員は震えた。
「ば、馬鹿な……!
私は何も……!」
私は一歩近づいた。
「では聞くわ。
この偽文書──
あなたの筆跡よね?」
私は文を掲げた。
御家人たちが息を呑む。
宗員の顔が真っ青になった。
「そ、それは……
私は……
知らぬ……!」
(追い詰められたわね)
私は静かに言った。
「宗員。
影はね、
“光の前に出た瞬間”に消えるのよ」
宗員は叫んだ。
「政子殿こそ……!
鎌倉殿を操っているのだろう!
御家人たちを従わせ、
鎌倉を北条のものにしようとしているのだろう!」
評定がざわつく。
「操っている……?」
「政子様が……?」
「そんなはずは……!」
(ああ、宗員。
あなた、完全に自滅の道を選んだわね)
私は静かに言った。
「宗員。
あなたは“影”として動いた。
でも──
影は光に弱い」
宗員は震えながら叫んだ。
「政子殿は悪女だ!
鎌倉殿を惑わせ、
御家人を支配し、
鎌倉を……!」
その瞬間──
評定の扉が開いた。
「──誰が政子を悪女と言った」
空気が凍りついた。
頼朝が立っていた。
宗員の顔から血の気が引いた。
「か、鎌倉殿……!」
頼朝はゆっくりと歩み出た。
「宗員。
お前が流した偽文書……
すべて聞いた」
宗員は膝をついた。
「ち、違うのです……!
私は……
私はただ……!」
頼朝は冷たく言った。
「政子は私を操ってなどいない。
政子は“鎌倉の柱”だ。
お前の影の策など、
政子の光には勝てぬ」
宗員は震えた。
「鎌倉殿……
お許しを……!」
頼朝は背を向けた。
「許すかどうかは──
政子が決める」
評定の空気が一気に政子へ向く。
(ああ、この瞬間。
空気が“私を中心に回る”瞬間)
私は静かに言った。
「宗員。
あなたは影として動いた。
でも──
影は光に焼かれるの」
宗員は崩れ落ちた。
「政子殿……
私は……
私は……!」
私は背を向けた。
「宗員。
あなたの役目は終わりよ」
*
──夜。
私は灯りの下で筆を取った。
(宗員は自滅した。
でも──
影の本体はまだ残っている)
筆が走る。
「……次は能員」
私は静かに笑った。
──悪女は、
影の“本体”を逃がさない。
そしてこの日、
**比企宗員は評定で自滅し、
鎌倉の空気は政子へと完全に傾いた。**
嵐の中心は、
まだこれから動き出す。




