第46話 政子、“影を表へ引きずり出す”
翌朝の鎌倉。
昨日の偽文書事件は、
まだ誰も知らないはずだった。
──はず、なのに。
「政子様が……鎌倉殿を操っているらしい」
「いや、そんなはずは……」
「でも……文が出回っていると……」
(ああ、やっぱりね。
影の策は“静かに広がる”のが特徴)
侍女が駆け込んできた。
「政子様……!
町で“政子様の悪評”が……
広まり始めています……!」
私は静かに言った。
「ええ、知っているわ」
侍女は固まった。
「ど、どうして……
そんなに落ち着いて……?」
私は微笑んだ。
「影はね、
“広がり始めた瞬間”が一番弱いのよ」
*
──義時の屋敷。
義時は焦りで顔を真っ赤にしていた。
「姉上……!
偽文書の噂が……
御家人たちの耳にも入り始めています……!」
私は静かに言った。
「義時。
宗員は“影”として動いている。
影は、光に当てれば消えるわ」
義時は息を呑んだ。
「では……
どうされます……?」
私は微笑んだ。
「宗員を“表”へ引きずり出すのよ」
義時は震えた。
「姉上……
あなたは……
影の動きまで……
完全に読んでいるのですね……!」
(読むだけじゃないわ。
“動かす”のよ)
*
──その頃、比企宗員の屋敷。
宗員は満足げに笑っていた。
「ふふ……
偽文書は広がり始めた。
政子殿の評判は落ちる。
能員様の影として、
私は役目を果たしている……!」
家臣が不安げに言う。
「しかし宗員様……
政子様は……
恐ろしいほどの策士……
お気をつけませぬと……」
宗員は鼻で笑った。
「政子殿は“光”だ。
光は影を見ない。
影に気づくことはない」
(あら、宗員。
あなた、完全に勘違いしているわね)
*
──政子の屋敷。
私は侍女に命じた。
「宗員の屋敷に“あるもの”を届けて」
侍女は首をかしげた。
「あるもの……?」
私は微笑んだ。
「ええ。
“影が嫌うもの”よ」
*
──比企宗員の屋敷。
宗員の前に、
一通の文が届けられた。
家臣が震えながら言う。
「宗員様……
こ、これは……
政子様からの文でございます……!」
宗員の顔が強張った。
「……政子殿から……?」
文には、
たった一行だけ書かれていた。
──“明日、評定でお会いしましょう。
影の中心・比企宗員殿”──
宗員の顔から血の気が引いた。
「……な……
なぜ……
私が“影”だと……
分かった……?」
家臣が震えた声で言う。
「宗員様……
政子様は……
影を読むお方……」
宗員は文を握りしめた。
「……まずい……
これは……
まずい……!」
(ええ、まずいわよ。
あなたはもう“表”に出されたの)
*
──夜。政子の屋敷。
私は灯りの下で静かに筆を取った。
(宗員。
あなたは影として動いた。
でも──
影は光に弱い)
筆が走る。
「……明日、宗員を“表”で裁く」
私は静かに笑った。
──悪女は、
影を逃がさない。
そしてこの日、
**政子は比企宗員を“影”から“表”へ引きずり出し、
第二章の戦いは一気に加速した。**
鎌倉は、
嵐の前の静けさに包まれる。




