第40話 和田義盛、“政子の承認”に屈する
三浦義村を揺らした翌日。
鎌倉の空気は、
昨日よりさらに不安定になっていた。
「義村殿が政子様に従ったらしい……」
「では……我らはどうする……?」
「政子様抜き評定は……本当に開けるのか……?」
(……揺れが広がっている。
義村が動けば、空気は必ず変わる)
侍女が駆け込んできた。
「政子様……!
和田義盛様が……
“政子様に負けてたまるか”と……
声を上げております……!」
私は静かに言った。
「ええ、知っているわ」
侍女は固まった。
「ど、どうして……
そんなに落ち着いて……?」
私は微笑んだ。
「義盛は“力を示したいだけ”なの。
敵意じゃないわ」
侍女は息を呑んだ。
*
──和田義盛・屋敷。
義盛は大声で家臣たちを鼓舞していた。
「政子様が何だ!
我ら御家人の力を示す時だ!
政子様抜きで評定を開けば──
鎌倉殿も我らの力を認めるはずだ!」
家臣たちは盛り上がる。
「義盛様こそ鎌倉一の豪傑!」
「義盛様が前に出れば、鎌倉は安泰!」
義盛は満足げに頷いた。
(ああ、義盛。
あなたは本当に分かりやすい)
その時──
侍女が駆け込んできた。
「和田様……!
政子様がお呼びです……!」
義盛の顔が強張った。
「……政子様が……?」
家臣が囁く。
「義盛様……
断れば……
政子様の怒りを買いますぞ……!」
義盛は震えた。
「い、行く……!」
(やっぱり来るわね)
*
──政子の屋敷・広間。
義盛は緊張で体を縮こませながら入ってきた。
「政子様……
お呼びと伺い……」
私は微笑んだ。
「義盛。
あなた、最近とても頑張っているわね」
義盛は固まった。
「……えっ?」
(褒められると思っていなかった顔ね)
私は続けた。
「御家人たちをまとめようとしている。
声を上げて、鎌倉を支えようとしている。
あなたの“力”は、
鎌倉にとって大切よ」
義盛の目が揺れた。
「せ、政子様……
わ、私は……
その……
ただ……!」
私は一歩近づいた。
「義盛。
あなたは“強い”。
でも──
強い者ほど、
“空気を乱す者”にはならないでほしいの」
義盛は息を呑んだ。
「……空気を……乱す……?」
「ええ。
あなたが声を上げれば、
御家人たちは“力”だと思ってついてくる。
でも──
その力が“暴走”したら、
鎌倉は壊れるわ」
義盛は震えた。
「政子様……
私は……
鎌倉を壊したくは……ない……!」
私は微笑んだ。
「なら、私と一緒に守りましょう。
あなたの力は、
“守るため”に使うべきよ」
義盛は膝をついた。
「政子様……!
私は……
あなたの言葉に従います……!
鎌倉のために……!」
(よし、二人目)
私は静かに言った。
「ありがとう、義盛。
あなたは本当に強いわ」
義盛は涙を浮かべていた。
「政子様……
そんなことを言われたのは……
初めてです……!」
(承認欲求、完全に満たされたわね)
*
──義時の屋敷。
義時が駆け込んできた。
「姉上……!
和田義盛が……
“政子様のために力を使う”と……!」
私は静かに言った。
「ええ。
義盛は“褒められれば動く”のよ」
義時は震えた。
「姉上……
あなたは……
御家人たちの心を……
完全に読んでいるのですね……!」
(読むだけじゃないわ。
“動かす”のよ)
私は空を見上げた。
──次は、畠山重忠。
そしてこの日、
**政子は和田義盛の承認欲求を突き、
御家人連合の“第二の割れ目”を作った。**
鎌倉は、
崩壊の音を立て始める。




