第4話 銀座ママ、夫婦問題を一瞬で見抜く
亀の前と会ってから数日。
鎌倉の空気が、どこかざわついていた。
「政子様……鎌倉殿が、最近ずっと不機嫌で……」
侍女が怯えた声で告げる。
(ああ、銀座でもよくあったわね。
“奥様と愛人が接触した後の旦那さん”ってやつ)
私はため息をついた。
「……呼ばれてるのね、私」
「は、はい……鎌倉殿がお呼びです……」
侍女の顔は青ざめている。
でも私は、銀座で何百回も経験した“修羅場”を思い出していた。
──夫婦問題は、まず“聞く”ことから。
*
頼朝の部屋に入ると、
彼は腕を組んで座っていた。
「政子」
その声は低く、硬い。
怒っているというより、拗ねている。
(あー……これは完全に“拗ねてる男”の声ね)
私は銀座ママの笑顔で頭を下げた。
「お呼びでしょうか、鎌倉殿」
頼朝はしばらく黙っていた。
その沈黙が、逆にわかりやすい。
(絶対、私と亀の前が会ったこと気にしてるわね)
やがて、頼朝はぽつりと言った。
「……亀の前と、会ったそうだな」
(ほら来た)
私は落ち着いて答えた。
「ええ。とても良い子でした」
頼朝の眉がピクリと動く。
「怒らなかったのか」
「怒る理由がありませんもの」
頼朝は完全に固まった。
(あら、予想外だった?)
私は続けた。
「彼女は、あなたに大切にされたいだけ。
そしてあなたも、誰かに理解されたいだけ」
頼朝の目が大きく開かれた。
「……政子、お前……何を……」
「夫婦の問題は、誰かを責めても解決しません。
まずは、お互いの気持ちを聞くことからです」
銀座で何百回も言ってきた言葉だった。
頼朝はしばらく黙っていたが、
やがて、ふっと息を吐いた。
「……政子。お前は、変わったな」
(中身、銀座ママですから)
だが、ここで本音を言うわけにはいかない。
私は微笑んだ。
「少しだけ、周りを見る余裕ができたのかもしれません」
頼朝は、どこか照れたように視線を逸らした。
その瞬間──
部屋の外で、ひそひそ声が聞こえた。
「聞いたか……政子様が鎌倉殿を“言いくるめた”らしい……!」
「なんという……恐ろしい女……!」
(えっ!?)
私は思わず天を仰いだ。
**善意で言ったアドバイスが、また“悪女の策略”扱い。**
銀座でも誤解はあったけれど、
ここまでとは思わなかった。
頼朝は苦笑した。
「……政子。お前、誤解されやすいぞ」
「慣れております」
私は即答した。
頼朝は少し驚いたように私を見た。
「……そうか。
だが、私は……お前を信じている」
その言葉は、銀座ママの心に少しだけ響いた。
(この人、本当に不器用で、孤独で……
放っておけないタイプだわ)
私は静かに頭を下げた。
「ありがとうございます、鎌倉殿」
その瞬間、廊下の侍女たちは震え上がった。
「見ましたか……!
政子様、鎌倉殿を完全に掌握しておられる……!」
「やはり……恐ろしい……!」
(違うってば!!)
私は心の中で叫んだ。
──こうして私は、
**夫婦問題を解決しただけで“悪女”扱いされる世界**
で生きていくことになった。
でも、いい。
誤解されても、嫌われても、
私は今日も誰かの心を救う。
銀座ママ流に。




