第39話 三浦義村、“政子の一言”で揺らぐ
御家人たちが“政子抜き評定”を開く前日。
鎌倉の空気は、
まるで嵐の前のようにざわついていた。
「政子様は強すぎる……」
「我らの声が届かぬ……」
「政子様抜きで評定を開けば……!」
(……空気が膨らんでいる。
でも、この膨らみ方は不自然ね)
侍女が駆け込んできた。
「政子様……!
三浦義村様が……
“政子様の影響力を弱めるべきだ”と……
声を上げております……!」
私は静かに言った。
「ええ、知っているわ」
侍女は固まった。
「ど、どうして……
そんなに落ち着いて……?」
私は微笑んだ。
「義村は“揺れ”なの。
揺れは、最初に動くわ」
*
──三浦義村・屋敷。
義村は、家臣たちを前に語っていた。
「政子様は強すぎる……
鎌倉殿も政子様に頼りすぎている……
我ら御家人の声を示すべきだ……!」
家臣たちは頷く。
「義村様のお言葉、もっともにございます……!」
義村は満足げに頷いた。
(ああ、義村。
あなたは“風を読む”のは得意だけど、
“風を作る”のは苦手なのよ)
その時──
侍女が駆け込んできた。
「三浦様……!
政子様がお呼びです……!」
義村の顔が強張った。
「……政子様が……?」
家臣が囁く。
「義村様……
断れば……
政子様の怒りを買いますぞ……!」
義村は震えた。
「い、行く……!」
(やっぱり来るわね)
*
──政子の屋敷・庭。
義村は緊張で肩を上げながら入ってきた。
「政子様……
お呼びと伺い……」
私は微笑んだ。
「義村。
最近、よく声を上げているわね」
義村は息を呑んだ。
「い、いえ……私は……
ただ……御家人の声を……!」
私は静かに言った。
「義村。
あなたは“風を見る男”よね?」
義村は固まった。
「えっ……?」
「風を見る男はね、
“風が変わる瞬間”を誰よりも早く感じる」
義村の目が揺れた。
「……!」
私は続けた。
「今の空気は──
“政子を弱める風”じゃないわ」
義村は震えた。
「で、では……
何の風が……?」
私は一歩近づいた。
「“御家人たちが割れ始めている風”よ」
義村は息を呑んだ。
「……割れ……?」
「ええ。
あなたは“揺れ”。
義盛は“力”。
重忠は“正義”。
この三つは混ざらない」
義村は完全に固まった。
(ここからが本番よ)
私は静かに言った。
「義村。
あなたは“どの風”に乗るの?」
義村は震えた。
「……政子様の……風に……」
(よし、一人目)
私は微笑んだ。
「賢い選択よ。
あなたは“風を見る男”なんだから」
義村は深く頭を下げた。
「政子様……
私は……
あなたの言葉に従います……!」
(これで御家人連合は一つ割れたわ)
*
──義時の屋敷。
義時が駆け込んできた。
「姉上……!
三浦義村が……
“政子様の言葉に従う”と……!」
私は静かに言った。
「ええ。
義村は揺れやすいの。
最初に揺らすには最適よ」
義時は震えた。
「姉上……
あなたは……
御家人たちを……
空気で動かしているのですね……!」
(空気はね、
“割れ目”から崩れるのよ)
私は空を見上げた。
──次は、和田義盛。
そしてこの日、
**政子は三浦義村を揺らし、
御家人連合の“最初の割れ目”を作った。**
鎌倉は、
静かに崩れ始める。




