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『銀座ママ、北条政子に転生す 〜善人なのに悪女と呼ばれたので、今日も鎌倉を籠絡させます〜』  作者: 双鶴


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第35話 政子、“悪女”から“守護者”へ戻る

比企能員が敗北を認めた翌朝。


鎌倉は、まるで嵐が過ぎ去った後のように静かだった。

昨日までの濁った空気は消え、

人々の声は落ち着きを取り戻していた。


(……空気が澄んでいる。

 これでようやく、鎌倉が呼吸できるわね)


侍女が駆け込んできた。


「政子様……!

 御家人たちが……

 “政子様に謝罪したい”と……

 屋敷の前に並んでおります……!」


私は静かに言った。


「ええ、通してあげて」


侍女は驚いた。


「お、怒っておられないのですか……?」


私は微笑んだ。


「怒る必要なんてないわ。

 空気に流された人を責めても意味がないもの」


(銀座でもよくあったわね。

 “空気に飲まれた客”は叱るより、整えてあげる方が早い)



──政子の屋敷・広間。


御家人たちが次々と頭を下げた。


「政子様……!

 比企殿の言葉に惑わされ……

 申し訳ございませんでした……!」


「政子様を疑ったこと……

 深くお詫び申し上げます……!」


「どうか……

 我らをお許しください……!」


私は静かに言った。


「許すわ。

 でも──

 “空気に流されない強さ”は、

 これから身につけてね」


御家人たちは震えた。


「政子様……

 肝に銘じます……!」


(これでいいのよ。

 責めるより、学ばせる方が強い)



──比企能員・屋敷。


能員は、昨日とは違う顔で政子を迎えた。

その目には、敵意も怒りもなく──

ただ、静かな敗北の色だけがあった。


「政子殿……

 昨日は……

 見事であった」


私は静かに言った。


「比企殿。

 あなたは賢いわ。

 でも──

 “恐怖”で空気を作るのは、

 もうやめた方がいい」


能員は苦笑した。


「……あの時、

 あなたが“覚悟”と言った意味が……

 今なら分かる」


私は頷いた。


「覚悟のない者は、

 空気に飲まれるだけよ」


能員は深く頭を下げた。


「政子殿。

 私は……

 あなたに敗れたことを認める。

 これ以上、鎌倉を乱すつもりはない」


(これで比企家は完全に沈黙するわね)



──頼朝の館。


頼朝は、私を見るなり立ち上がった。


「政子……

 お前のおかげで、

 鎌倉は救われた」


(あら、今日は素直ね)


頼朝は続けた。


「私は……

 お前を信じると言ったが……

 あれは……

 “お前に頼りたい”という意味でもある」


(頼りたい、ね。

 やっと本音を言ったわね)


私は静かに言った。


「頼朝さん。

 私は“悪女”として鎌倉を守ったけれど──

 もうその役目は終わりよ」


頼朝は息を呑んだ。


「終わり……?」


私は微笑んだ。


「ええ。

 “悪女”は、

 必要な時だけでいいの」


頼朝は目を閉じた。


「政子……

 お前は……

 私の……

 いや、鎌倉の守り手だ」


(守り手、ね。

 悪女よりずっといい肩書きだわ)



──夜。


私は灯りの下で静かに筆を取った。


(比企家の策は終わった。

 頼朝さんは前に出た。

 御家人たちは空気を学んだ)


筆が走る。


「……悪女政子、役目を終える」


私は静かに笑った。


──悪女は、

必要な時だけ姿を見せる。

普段はただの“政子”でいい。


そしてこの日、

**政子は“悪女”から“守護者”へ戻り、

比企編は静かに幕を閉じた。**


鎌倉は、

新たな章へ進み始める。


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