第33話 頼朝、“政子を信じる”と宣言する
翌朝。
鎌倉殿の館の前には、
御家人たちが押し寄せていた。
「鎌倉殿に会わせろ!」
「政子様の命令かどうか確かめる!」
「比企殿の言葉は本当なのか!」
空気は濁り、
怒号が渦を巻き、
まるで鎌倉全体が揺れているようだった。
(……空気が限界ね)
侍女が駆け込んできた。
「政子様……!
御家人たちが……
鎌倉殿の館を包囲しています……!」
私は静かに言った。
「ええ、知っているわ」
侍女は固まった。
「ど、どうして……
そんなに落ち着いて……?」
私は微笑んだ。
「今日、空気が変わるからよ」
*
──鎌倉殿の館・大広間。
御家人たちが押し寄せ、
比企能員が前に立っていた。
「鎌倉殿!
政子殿が“偽の命”を出したと聞き及びます!
真偽をお示しください!」
御家人たちがざわめく。
「政子様が……?」
「本当に……?」
「比企殿は“証拠がある”と言っていたぞ……!」
(ああ、能員さん。
あなた、本気で来たのね)
能員は続けた。
「鎌倉殿!
政子殿は、あなたを操っております!
このままでは鎌倉が乱れますぞ!」
その瞬間──
広間の扉が静かに開いた。
「……政子様だ……!」
私はゆっくりと歩み出た。
ざわめきが止まる。
(いいわ、この“空気の止まり方”)
能員が睨みつけてきた。
「政子殿……
あなたは鎌倉殿を操っているのですか?」
私は微笑んだ。
「操る?
そんな面倒なこと、するわけないでしょう」
御家人たちがざわめく。
能員は声を張り上げた。
「では──
“偽命令”は何だ!」
私は静かに言った。
「比企殿。
あなたが作った“偽命令”よ」
広間が凍りついた。
能員の顔が歪む。
「な……!」
(ここからが本番よ)
私は続けた。
「比企殿。
あなたは“恐怖”で空気を作った。
でも──
恐怖は長く続かないわ」
能員は震えた。
「政子殿……
あなたは……
どこまで……」
私は一歩前に出た。
「全部よ」
その瞬間──
広間の奥から頼朝が姿を現した。
「……静まれ」
空気が一瞬で変わった。
御家人たちがひざまずく。
「鎌倉殿……!」
頼朝は政子の横に立った。
(あら、今日は迷っていないわね)
頼朝は広間を見渡し、
はっきりと言った。
「政子は──
私を操ってなどいない」
御家人たちが息を呑む。
頼朝は続けた。
「政子は……
私が最も信じる者だ」
空気が一気に反転した。
ざわめきが広がる。
「鎌倉殿が……!」
「政子様を……信じると……!」
「比企殿は……嘘を……?」
能員の顔が青ざめた。
「か、鎌倉殿……
それは……!」
頼朝は能員を睨んだ。
「比企能員。
お前が“偽命令”を出したと聞いた」
能員は震えた。
「そ、それは……!」
頼朝は静かに言った。
「政子を貶めるために、
私の名を使ったな」
能員は言葉を失った。
(ああ、頼朝さん。
あなた、今日は本当に強いわ)
頼朝は続けた。
「政子は──
鎌倉の柱だ」
広間が揺れた。
御家人たちが一斉に頭を下げる。
「政子様……!」
「申し訳ございません……!」
「比企殿に惑わされて……!」
能員は膝をついた。
「鎌倉殿……
私は……!」
頼朝は冷たく言った。
「能員。
お前の策は、ここで終わりだ」
能員は震えた。
(終わりよ、比企殿)
*
──広間を出た後。
義時が駆け込んできた。
「姉上……!
鎌倉殿が……
“政子は柱だ”と……!」
私は微笑んだ。
「ええ。
頼朝さんは、やっと前に出たわ」
義時は震えた。
「姉上……
あなたは……
鎌倉を……
動かしたのですね……!」
(動かしたというより、
“空気を整えただけ”よ)
私は空を見上げた。
──比企家の策は崩れた。
でも、まだ終わりじゃない。
そしてこの日、
**頼朝が“政子を信じる”と宣言し、
比企家の策は大きく崩れ始めた。**
鎌倉は、
決着の足音を聞いた。




