第30話 政子、比企能員と“初の直接対決”へ
比企家が政子の裏を探り、
鎌倉の空気が張りつめた翌朝。
侍女が駆け込んできた。
「政子様……!
比企能員様から“至急参れ”との文が……!」
(ついに来たわね)
侍女は震えていた。
「政子様……
罠かもしれません……!」
私は微笑んだ。
「罠なら、踏み抜けばいいのよ」
侍女は完全に固まった。
(悪女はね、罠を恐れないの)
*
──比企能員・屋敷。
能員は、政子を待っていた。
その目は鋭く、
まるで“獲物を見定める鷹”のようだった。
「政子殿。
よく来られた」
私は静かに言った。
「呼ばれたから来ただけよ。
あなたの顔を見るためじゃないわ」
能員の眉がわずかに動いた。
(あら、効いたわね)
能員は文を机に置いた。
「政子殿。
あなたの“悪女文書”が鎌倉を乱している。
御家人たちは怯え、
鎌倉殿は迷い、
鎌倉は揺れている」
私は首を傾げた。
「それが何かしら?」
能員の目が細くなる。
「……政子殿。
あなたは鎌倉殿を惑わせている。
その責任を、どう取るつもりだ」
(責任、ね。
銀座でもよく聞いたわ)
私は一歩前に出た。
「比企殿。
あなたは勘違いしているわ」
能員は眉をひそめた。
「……何をだ」
私は静かに言った。
「“鎌倉を揺らしているのは私”じゃない。
“あなた”よ」
能員の目が揺れた。
「……何……?」
「あなたが噂を流し、
恐怖を煽り、
御家人たちを動けなくした。
その結果、鎌倉が揺れたのよ」
能員は口を開きかけたが、
私は続けた。
「私はただ──
“揺れた鎌倉を支えているだけ”」
能員は完全に固まった。
(ここからが本番よ)
私はさらに言った。
「比企殿。
あなたは“私の裏”を探っているそうね」
能員の目が鋭くなった。
「……それがどうした」
「裏を探る者ほど、
“自分の裏”を見せているものよ」
能員の表情がわずかに崩れた。
「……何を言っている」
私は微笑んだ。
「あなたは私を恐れている。
だから裏を探る。
恐れはね──
最大の弱点よ」
能員の呼吸が止まった。
(効いたわね)
私は静かに言った。
「比企殿。
あなたが恐れているのは、
“私”ではなく──
“鎌倉殿が私を選ぶこと”よ」
能員は机を握りしめた。
「政子殿……
あなたは……
どこまで……」
私は一歩近づいた。
「全部よ」
能員は震えた。
(この瞬間、勝負は決まったわ)
*
──屋敷を出ると、義時が待っていた。
「姉上……!
比企能員は……どうでした……?」
私は静かに言った。
「義時。
比企能員は“恐れている”。
それが、最大の弱点よ」
義時は息を呑んだ。
「姉上……
あなたは……
比企能員を……
言葉だけで追い詰めたのですか……?」
私は微笑んだ。
「悪女はね、
言葉で十分よ」
義時は震えた。
「姉上……
あなたは……
化け物です……!」
(褒め言葉として受け取っておくわ)
*
──夜。
私は灯りの下で静かに考えた。
(比企能員は揺れた。
でも──
まだ終わりじゃない)
筆を取る。
「……次は“鎌倉殿”を動かす」
私は静かに笑った。
──悪女は、
敵を揺らし、
味方を動かす。
そしてこの日、
**政子と比企能員の初の直接対決は、
政子の“圧勝”で幕を閉じた。**
鎌倉は、
決戦の気配を濃くしていく。




