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『銀座ママ、北条政子に転生す 〜善人なのに悪女と呼ばれたので、今日も鎌倉を籠絡させます〜』  作者: 双鶴


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第29話 頼朝、“初めての本音”をぶつける

比企家が政子の裏を探り始めた翌朝。


鎌倉殿の館は、いつもより静かだった。

侍女たちの足音も小さく、

まるで“嵐の前”のような空気が漂っている。


(……頼朝さん、迷っているわね)


侍女が駆け込んできた。


「政子様……

 鎌倉殿がお呼びです。

 “誰にも聞かせるな”と……」


(あら、珍しいわね。

 秘密の呼び出しなんて)



──頼朝の館。


頼朝は、文机の前でじっと座っていた。

その手には、政子の“悪女文書”が握られている。


「政子……来たか」


(声が低い。

 これは“本音を言う前”の声ね)


私は静かに言った。


「どうされたの、頼朝さん」


頼朝は文を机に叩きつけた。


「政子……

 お前は……

 なぜ……そこまでして私を守る」


(あら、今日は強い言い方ね)


頼朝は続けた。


「比企家は……

 お前の裏を探っている。

 御家人たちは……

 お前を恐れたり、避けたりしている。

 それでも……

 お前は笑っている……!」


(ああ、そこが気になっていたのね)


頼朝は拳を握りしめた。


「政子……

 お前は……

 “自分が傷つくこと”を恐れないのか」


私は微笑んだ。


「恐れないわ」


頼朝は息を呑んだ。


「……なぜだ……?」


私は一歩近づいた。


「頼朝さん。

 私はね──

 “守るべきもの”がある時だけ、

 悪女になれるの」


頼朝の目が揺れた。


「……守るべきもの……?」


「ええ。

 鎌倉。

 御家人たち。

 そして──

 あなた」


頼朝は完全に固まった。


(ここで逃げないのが悪女よ)


私は続けた。


「頼朝さん。

 あなたは“私が傷つくこと”を心配しているけれど──

 私は“あなたが傷つくこと”の方が怖いの」


頼朝の呼吸が止まった。


「政子……

 お前は……

 私の……何だ……?」


(あら、今日は逃げないのね)


私は静かに言った。


「私は“あなたの味方”よ。

 誰が何と言おうとね」


頼朝は目を閉じた。


「政子……

 私は……

 お前を失うのが……怖い」


(やっと言ったわね)


私は微笑んだ。


「頼朝さん。

 私を失うのが怖いなら──

 迷わないことよ」


頼朝は息を呑んだ。


「迷わない……?」


「ええ。

 あなたが迷えば、

 比企家はそこを突く。

 御家人たちは揺れる。

 鎌倉が崩れる」


頼朝は拳を握りしめた。


「政子……

 私は……

 どうすればいい……?」


私は静かに言った。


「簡単よ。

 “私を信じる”と、

 あなた自身の口で言えばいいの」


頼朝は震えた。


「政子……

 私は……

 お前を──」


言葉が喉で止まる。


(今日はここまでね)


私は背を向けた。


「答えは急がなくていいわ。

 でも──

 比企家は待ってくれない」


頼朝は息を呑んだ。


「政子……

 お前は……

 どこまで私を……」


私は振り返らずに言った。


「全部よ」


頼朝は完全に固まった。


(頼朝さん。

 あなたが迷うなら、

 私が先に進むだけ)



──政子の屋敷。


義時が駆け込んできた。


「姉上……!

 鎌倉殿が……

 “政子を失いたくない”と……!」


(あら、言ったのね)


義時は震えた声で続けた。


「姉上……

 鎌倉殿は……

 姉上の悪女化に……

 心を揺さぶられております……!」


私は静かに言った。


「揺れるのは悪いことじゃないわ。

 揺れた後に、

 何を掴むかが大事なの」


義時は息を呑んだ。


「姉上……

 あなたは……本当に……」


「何?」


「……鎌倉殿の“心の中心”です……!」


(中心、ね。

 悪女にしては上等な肩書きだわ)


私は空を見上げた。


──頼朝さんが迷うなら、

私が導く。


そしてこの日、

**頼朝は初めて“政子を失う恐怖”を口にし、

政子はその揺れを受け止めた。**


鎌倉の空気は、

決戦前夜のように張りつめていく。


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