第27話 政子、“悪女の接客術”で御家人を揺さぶる
比企家の罠が鎌倉に広がって三日。
御家人たちは、政子の屋敷を避けるように歩いていた。
まるで、そこだけ地面が抜けているかのように。
(……いいわね。この“避けられている空気”)
侍女が駆け込んできた。
「政子様……!
御家人たちが……
“政子様に近づくな”と……
比企家に言われているようで……!」
私は微笑んだ。
「じゃあ──
私から近づけばいいのよ」
侍女は固まった。
「えっ……?」
(銀座でもよくあったわね。
“来ない客は、こちらから呼ぶ”)
*
──政子の屋敷・広間。
私は御家人たちを一人ずつ呼び出した。
「政子様が……呼んでいる……?」
「いやだ……怖い……」
「でも断ったら……もっと怖い……」
(可愛いわね、この反応)
最初に入ってきたのは、
普段は比企家に近い御家人・三浦義村。
義村は緊張で肩が上がっていた。
「政子様……
お呼びと伺い……」
私は微笑んだ。
「義村。
あなた、最近“比企家の顔色”ばかり見ているわね」
義村は息を呑んだ。
「い、いえ……私は……!」
「いいのよ。
あなたは“風を見る男”だもの」
義村は固まった。
(褒めているようで、刺している。
銀座の常套手段よ)
私は続けた。
「でもね、義村。
風はね──
“作る側”についた方が得よ」
義村の目が揺れた。
「……作る……側……?」
「ええ。
比企家は“恐怖”で風を作っている。
私は“信頼”で風を作る」
義村は完全に固まった。
「政子様……
あなたは……
何を……」
私は微笑んだ。
「義村。
あなたはどちらの風に乗るの?」
義村は震えた。
「……政子様の……風に……」
(よし、一人目)
*
次に呼んだのは、
比企家に強く影響されていた御家人・和田義盛。
義盛は大柄な体を縮こませて入ってきた。
「政子様……
わ、私は……
比企殿に……」
私は静かに言った。
「義盛。
あなたは“強い男”よね?」
義盛は驚いた。
「えっ……?」
「強い男はね、
“誰かの影に隠れる”なんて似合わないわ」
義盛は息を呑んだ。
「……!」
「比企家の影に隠れるの?
それとも──
自分の足で立つの?」
義盛は拳を握りしめた。
「……私は……
政子様の言葉に従います……!」
(よし、二人目)
*
三人目、四人目……
御家人たちは次々と政子の言葉に揺さぶられ、
比企家の“恐怖の空気”が少しずつ崩れていった。
(銀座の接客術はね、
“相手の本音を引き出す”ことに特化しているの)
*
──夕方。
義時が駆け込んできた。
「姉上……!
御家人たちが……
“政子様の言葉に心を動かされた”と……!」
私は微笑んだ。
「義時。
空気はね、
“恐怖”より“理解”の方が強いのよ」
義時は震えた。
「姉上……
あなたは……
比企家の空気を……
上書きしているのですね……!」
(そうよ。
空気は作り替えられる)
*
──夜。
私は灯りの下で静かに考えた。
(比企家は“恐怖”で空気を作った。
私は“信頼”で空気を作り替えた。
次は──
頼朝さんを動かす番ね)
私は静かに笑った。
──悪女は、
空気を読むだけじゃない。
空気を“支配”する。
そしてこの日、
**政子は御家人たちの心を揺さぶり、
比企家の“恐怖の空気”を崩し始めた。**
鎌倉は、
政子の一手で再び動き出す。




