第25話 比企家、“孤立の罠”を発動する
政子が“悪女”を名乗ってから三日。
鎌倉の空気は、静かに、しかし確実に変わっていた。
御家人たちの視線は揺れ、
噂は渦を巻き、
そして──比企家は動いた。
*
──比企能員・屋敷。
能員は、御家人たちを前に静かに口を開いた。
「皆の者。
政子殿は自ら“悪女”を名乗った。
これは……鎌倉殿を守るためではない」
御家人たちがざわめく。
「では……何のために……?」
能員は文を掲げた。
「“政子は逆らう者を切り捨てる”
そう書いてある」
御家人たちの顔が強張る。
「政子殿は……
北条を使い、鎌倉を支配しようとしているのだ」
(あら、言い切ったわね)
能員は続けた。
「政子殿に逆らえば、家が潰される。
だからこそ──
我らは団結せねばならぬ」
御家人たちの表情が変わる。
恐怖が、
“比企の味方”を生み始めていた。
*
──鎌倉の町。
「政子様は……危険だ……」
「比企殿が言うなら……間違いない……」
「北条と組んで鎌倉を支配するつもりだと……」
(支配なんて面倒なこと、するわけないのに)
噂は、政子の屋敷を避ける風となって吹き荒れていた。
*
──義時の屋敷。
義時は焦っていた。
「姉上が……孤立し始めている……!」
北条の家臣が言う。
「比企家は……
“政子様に怯える者たち”を集めております……!」
義時は拳を握りしめた。
「姉上……
どうか……どうか動いてください……!」
(義時、あなたは本当に真っ直ぐね)
*
──政子の屋敷。
侍女が駆け込んできた。
「政子様……!
御家人たちが……
政子様を避けています……!」
私は静かに茶を啜った。
「ええ、知っているわ」
侍女は固まった。
「ど、どうして……
そんなに落ち着いて……?」
私は微笑んだ。
「比企家が“恐怖”を集めているなら──
私は“信頼”を集めるだけよ」
侍女は息を呑んだ。
「信頼……?」
「ええ。
悪女はね、
“恐れられる”より“理解される”方が強いの」
侍女は震えた。
「政子様……
まさか……」
私は立ち上がった。
「比企家が御家人を集めるなら、
私は“鎌倉殿”を動かすわ」
侍女は完全に固まった。
「鎌倉殿を……?」
私は微笑んだ。
「頼朝さんが迷っているなら、
迷いごと引きずって前に出してあげる」
(銀座でもよくあったわね。
“迷う男は、背中を押すより引きずり出す方が早い”)
*
──その夜。
頼朝の館に向かう途中、
私はふと空を見上げた。
(比企家は賢い。
でも──
私の方が一枚上よ)
私は静かに笑った。
──悪女は、孤立を恐れない。
そしてこの日、
**比企家の“孤立の罠”が発動し、
政子はその罠を正面から踏み抜く決意を固めた。**
鎌倉の空気は、
さらに深く揺れ始める。




