第20話 比企家、政子の“沈黙の反撃”に揺れる
──比企能員・屋敷。
能員は、机を叩きつけた。
「政子殿……!
あの女……!
鎌倉殿の前で、あそこまで……!」
家臣たちは息を潜めている。
「能員様……
政子殿は、鎌倉殿の言葉を引き出しただけで……」
「それが問題なのだ!」
能員は怒鳴った。
「“鎌倉殿が政子を信じている”と
政子殿自身に言わせたのだぞ……!」
(あら、そこまで動揺してるのね)
能員は深く息を吐いた。
「……政子殿は、正面からは崩れぬ。
ならば──
“鎌倉殿の心”を揺らすしかない」
家臣たちが息を呑む。
「……鎌倉殿の心を……?」
能員は静かに頷いた。
「政子殿を孤立させるのではない。
“鎌倉殿を孤立させる”のだ」
(ああ、これは銀座でも見た“危険な手”ね)
*
──鎌倉の町。
御家人たちはざわめいていた。
「政子様……
鎌倉殿の前で比企能員を退けたらしいぞ」
「鎌倉殿が“政子を信じている”と……」
「政子様……やはり只者ではない……!」
(ただ話しただけよ)
だが、そのざわめきの裏で、
別の声も生まれていた。
「……鎌倉殿は、政子様に頼りすぎているのでは……?」
「政子様がいなければ、鎌倉殿は……」
「比企家が言うように、政子様は……」
(ああ、空気が二つに割れ始めたわね)
*
──義時の屋敷。
義時は、広がる噂を聞きながら、
胸の奥に不安を覚えていた。
「……姉上が勝ったのに……
なぜ、鎌倉殿が疑われる……?」
北条の家臣が言った。
「“政子様を信じている”という鎌倉殿の言葉が……
逆に“鎌倉殿は政子様に依存している”と……」
義時は拳を握りしめた。
「……比企家……!」
だが義時は気づいていなかった。
比企家の狙いは、
政子ではなく──
**“鎌倉殿の孤立”**
だということに。
*
──頼朝の館。
頼朝は、広がる噂に眉をひそめていた。
「政子を信じていると言っただけで……
なぜ、私が疑われる……?」
(あなた、ほんとに不器用ね)
頼朝は深く息を吐いた。
「政子に……会わねば」
*
──政子の屋敷。
私は静かに茶を淹れていた。
(……空気が割れたわね)
侍女が駆け込んできた。
「政子様……!
鎌倉殿が……!」
頼朝が入ってきた。
「政子。
私は……
お前を信じていると言っただけなのに……
皆が……私を疑っている」
(ああ、そう来たのね)
私は静かに言った。
「頼朝さん。
あなたが“誰を信じるか”は、
あなた自身が決めることよ」
頼朝は息を呑んだ。
「……政子……
お前は……私の……」
また言いかけて、口を閉じた。
(またそれ)
私は続けた。
「頼朝さん。
あなたが迷うと、皆が迷うわ。
でも──
あなたが決めたことなら、私は支える」
頼朝は目を見開いた。
「……政子……
お前は……強いな」
(強いというより、慣れてるだけよ)
*
その夜。
私は一人、灯りの下で文を広げた。
(比企家の狙いは“私”ではない。
“頼朝さんを孤立させること”)
私は静かに筆を取った。
「……なら、私が守るべきは──
“頼朝さんの心”ね」
その瞬間、
廊下の侍女たちがざわめいた。
「見た!?
政子様が……何かを決めた……!」
「やはり……恐ろしい……!」
(いや、ただ書いてるだけよ)
私は空を見上げた。
──比企家が動くなら、
私は“鎌倉殿の心”を守る。
それが、
私の役目だから。
そしてこの日、
**政子は初めて“比企家の本当の狙い”を理解した。
鎌倉の盤面は、静かに次の段階へ進み始めた。**




