第2話 銀座ママ、鎌倉殿を値踏みする
「政子様、本当にお怪我は……?」
侍女の心配は続いていた。
私は微笑んで首を振る。
「大丈夫よ。あなたたちの方が、よほど心配そうだわ」
その瞬間、侍女たちは顔を赤らめてうつむいた。
──ああ、この感じ。
銀座でもよくあったわね。
“安心させる笑顔”は、時代を超えて効く。
だが、私が状況を整理する前に、
屋敷の奥から重い足音が響いた。
「政子」
低く、よく通る声。
その声に、侍女たちが一斉にひざまずく。
現れたのは──
黒い直垂に身を包んだ男。
鋭い目つき。
だが、その奥に疲れと孤独が滲んでいる。
源頼朝。
歴史の教科書で見た“鎌倉殿”が、
今、私の前に立っている。
「馬に轢かれかけたと聞いた。無茶をするな」
その言い方は、叱責のようでいて、
どこか不器用な心配が混じっていた。
私は銀座ママの癖で、
つい“客を観察する目”になってしまう。
──この人、強がりだけど、孤独ね。
「ご心配をおかけしました」
私は深く頭を下げた。
銀座で培った“丁寧な所作”は、鎌倉でも通用する。
頼朝は一瞬、目を見開いた。
「……政子、お前、少し変わったな」
(そりゃそうよ。中身、銀座ママだもの)
だが、ここで本音を言うわけにはいかない。
私は微笑んだ。
「ええ。少し、気持ちの整理がついたのかもしれません」
頼朝はじっと私を見つめる。
その視線は、まるで“値踏み”するようだった。
──なら、こちらも値踏みさせてもらうわ。
銀座で何千人も見てきた“男の目”だ。
頼朝の目は、
権力者の目であり、
孤独な男の目であり、
そして──
信じたい相手を探している目だった。
「……そうか。ならば良い」
頼朝はそう言って踵を返した。
その背中を見送りながら、
私は確信した。
**この人、放っておくとすぐに孤独で壊れるタイプだわ。**
銀座でもよくいた。
成功者ほど、心は脆い。
私は小さく息をついた。
「……まずは、あの人の心を整えないとね」
侍女たちはその言葉を聞いて震え上がった。
「政子様……なんと恐ろしい……
鎌倉殿の“心”まで操ろうとなさるとは……」
(えっ、違う違う違う!)
私は慌てて否定しようとしたが、
侍女たちはすでに青ざめていた。
──こうして私は、
**善意で言った一言が“悪女の策略”に変換される世界**
に来てしまったらしい。
銀座ママとしては、
誤解されるのは慣れている。
でも、まさか鎌倉でも同じとは。
私は空を見上げた。
「……まあいいわ。誤解されるのは慣れてるもの」
銀座でも、鎌倉でも、
やることは同じ。
誰かの心を救うだけ。
たとえ、後世に“悪女”と呼ばれようとも。




