第18話 政子、比企家の“本当の狙い”に気づく
比企家が静かに包囲網を整えた翌朝。
鎌倉は、昨日よりさらに静かだった。
人々の声は小さく、足音だけが妙に響く。
(……空気が重い。
これは、ただの噂の広がりじゃない)
侍女が駆け込んできた。
「政子様……!
御家人たちが、政子様の屋敷に近づこうとしません……!」
(また距離を置かれてるわね)
侍女は続けた。
「“比企家に睨まれる”と……
“政子様に近づくと危険だ”と……」
(危険って何よ)
私は静かに息を吐いた。
*
義時が駆け込んできた。
「姉上!
比企家が……“政子様は鎌倉殿を動かしている”と
文をばらまいております!」
(文まで作ったのね)
義時は続けた。
「しかも……
“政子様は比企家を敵視している”と……!」
(敵視してないわよ)
義時は拳を握りしめた。
「姉上……
これは……罠です。
姉上が反論すれば“図星だ”と言われ、
黙っていれば“認めた”と言われる……!」
(ああ、銀座でもあったわね。
“どっちに転んでも悪者になる構図”)
私は静かに言った。
「義時。
比企家は、私を孤立させたいのよ」
義時は息を呑んだ。
「……姉上……
どうしてそこまで……」
「顔を見ればわかるわ」
義時は完全に固まった。
(この子、毎回驚いてる気がする)
*
その日の昼。
頼朝が険しい顔でやってきた。
「政子。
比企能員が……
“政子殿は鎌倉殿を惑わしている”と
御家人たちに言い回っている」
(またそれ)
私は静かに言った。
「頼朝さん。
比企家は、あなたを守りたいだけよ。
あなたが迷っているように見えるから、
不安になっているの」
頼朝は驚いたように目を見開いた。
「……政子。
お前は……どうして……
そんなふうに言える」
「顔を見ればわかるわ」
頼朝は完全に固まった。
(ほんとに不器用ね、この人)
頼朝は深く息を吐いた。
「政子。
私は……お前を信じている。
だが……鎌倉は、そう簡単ではない」
(わかってるわよ)
*
夕方。
義時が再び駆け込んできた。
「姉上!
比企家が……“政子様を排除すべき”と……
御家人たちに言い回っております!」
(排除ね……言葉が強くなってきたわ)
義時は拳を握りしめた。
「姉上……
私が止めます。
比企家を……!」
「義時」
私は静かに言った。
「争う必要はないわ」
義時は息を呑んだ。
「……しかし……!」
「比企家は、鎌倉殿を守りたいだけ。
私も、鎌倉殿を守りたい。
目的は同じよ」
義時は完全に固まった。
「……姉上……
あなたは……本当に……」
「何?」
「……鎌倉の“中心”に立つお方です……!」
(また大げさな)
*
その夜。
頼朝が、静かに部屋へ入ってきた。
「政子。
比企家のことだが……
私は……どうすればいい」
(あら、珍しく相談に来たわね)
私は静かに言った。
「頼朝さん。
あなたが迷うと、皆が迷うわ。
まずは、あなたが落ち着くことよ」
頼朝は息を呑んだ。
「……政子。
お前は……私の……」
また言いかけて、口を閉じた。
(またそれ)
廊下の侍女たちは震え上がった。
「聞いた!?
政子様が鎌倉殿の“心の支え”に……!」
「やはり……恐ろしい……!」
(もう好きに言って……)
私は空を見上げた。
──誤解されても、敵視されても、
私は今日も誰かの心を整える。
それが、私の生き方だから。
そしてこの日、
**比企家の“策”が本格的に動き出した。
政子包囲網は、静かに、しかし確実に狭まっていく。**




