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『銀座ママ、北条政子に転生す 〜善人なのに悪女と呼ばれたので、今日も鎌倉を籠絡させます〜』  作者: 双鶴


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16話 鎌倉、政子の“沈黙”にざわめく

比企能員との対話から一夜。


鎌倉は、妙に静かだった。

冬の空気が張りつめ、

人々の声がどこか上ずっている。


(……空気が変わったわね)


侍女がそっと近づいてきた。


「政子様……

 御家人たちが、皆……

 政子様の様子を伺っております」


(様子を伺う?)


「どうして?」


侍女は言いにくそうに口を開いた。


「昨日……比企能員様が……

 “政子殿は侮れぬ”と……

 “怒らせてはならぬ”と……

 言い回っておられたようで……」


(あら、能員さん。

 あなた、そんな言い方したのね)


私はため息をついた。



廊下を歩くと、

御家人たちが妙に距離を取って道を開けた。


「政子様……どうぞ……!」


「ひっ……目が合った……!」


(いや、普通に歩いてるだけよ)


義時が慌てて駆け寄ってきた。


「姉上!

 鎌倉中が……姉上を“怒らせぬように”と……

 緊張しております!」


(怒ってないわよ)


義時は続けた。


「比企能員が……

 “政子殿は筋を通す方だ”と……

 “下手なことをすれば切り捨てられる”と……!」


(言ってないわよ、そんなこと)


私は静かに言った。


「義時。

 私はただ、線を引いただけよ」


義時は息を呑んだ。


「……姉上……

 その“線”が……

 鎌倉中に伝わっております……!」


(伝わらなくていいのに)



その日の昼。


頼朝が、珍しく落ち着かない様子でやってきた。


「政子。

 御家人たちが……

“政子殿の機嫌を損ねぬように”と……

 私に相談してきた」


(相談する相手、間違ってるわよ)


頼朝は続けた。


「政子。

 お前は……昨日、比企能員に何を言った?」


「何も。

 ただ、大姫を巻き込むなと伝えただけよ」


頼朝は目を見開いた。


「……それだけで……

 比企能員が態度を変えたのか……?」


(そういう人なのよ)


私は静かに言った。


「頼朝さん。

 人はね、

 “本気で線を引く相手”には、

 無理をしなくなるのよ」


頼朝は完全に固まった。


(また驚いてる)



夕方。


義時が再び駆け込んできた。


「姉上!

 御家人たちが……

 “政子様の沈黙が一番怖い”と……!」


(沈黙してただけよ)


義時は続けた。


「しかも……

 “政子様は鎌倉殿よりも落ち着いている”と……

 “政子様こそ鎌倉の柱だ”と……!」


(いや、柱は頼朝さんよ)


私は静かに言った。


「義時。

 私は何もしていないわ」


義時は深く頷いた。


「……それが……

 皆を震え上がらせているのです……!」


(どういう理屈よ)



夜。


頼朝が、少しだけ照れたような顔で言った。


「政子。

 私は……

 お前がいてくれて……

 本当に助かっている」


(あら、素直)


「ありがとう」


頼朝は一瞬で顔を赤くした。


「……っ……!」


廊下の侍女たちは震え上がった。


「見た!?

 政子様が鎌倉殿を“照れさせた”……!」


「やはり……恐ろしい……!」


(もう好きに言って……)


私は空を見上げた。


──私は何もしていない。

ただ、守るべきものを守っただけ。


それなのに、

鎌倉は勝手に震え、勝手に動き始める。


そしてこの日、

**“政子の沈黙”が鎌倉の空気を支配した。

比企家よりも先に、鎌倉そのものが動き出した。**


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