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『銀座ママ、北条政子に転生す 〜善人なのに悪女と呼ばれたので、今日も鎌倉を籠絡させます〜』  作者: 双鶴


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第15話 政子、静かに“線を引く”

大姫の心が少しずつ開き始めた頃。


鎌倉の空気は、どこかざわついていた。

比企家の動きが原因だと、誰もが薄々気づいている。


だが私は、今日は政治のことを考える気にはなれなかった。


(……大姫の顔が、まだ少し曇っている)


庭で遊ぶ大姫の姿を見ながら、

私は胸の奥に小さな棘のような違和感を覚えていた。


「政子様」


侍女が駆け寄ってきた。


「比企能員様がお見えです」


(……来たわね)


私は立ち上がった。



比企能員は、にこやかな笑みを浮かべていた。


だが、その笑みの奥にある“探るような目”は隠せていない。


「政子殿。

 大姫様のこと……心配しておりますぞ」


(心配してる顔じゃないわね)


私は静かに言った。


「お気遣いありがとうございます」


能員は一歩近づいた。


「政子殿。

 鎌倉殿の御心を乱すようなことは……

 どうか、お控えいただきたい」


(……あら、そう来るの)


私は微笑んだ。


「比企殿。

 あなたは“鎌倉殿のため”と言うけれど──」


能員の目が細くなる。


「……?」


「本当に守りたいのは、

 “あなた自身の立場”ではなくて?」


能員の笑みが、完全に消えた。


(ああ、この沈黙。銀座でもよく見たわ)


能員は低い声で言った。


「政子殿……

 そのような言い方は──」


「比企殿」


私は一歩、能員に近づいた。


「私は、あなたを敵に回すつもりはない。

 でも──

 大姫を利用するなら、話は別よ」


能員は息を呑んだ。


「……政子殿……?」


「子どもを巻き込む大人は、

 どんな理由があっても許さない」


能員は完全に固まった。


(怒ってはいない。ただ“線を引いた”だけ)


私は続けた。


「比企殿。

 あなたが鎌倉殿を支えたいなら、

 私も同じ方向を向けるわ」


能員の目が揺れた。


「……同じ方向……?」


「ええ。

 “鎌倉殿が迷わないようにする”という方向よ」


能員はしばらく黙っていたが、

やがて小さく頭を下げた。


「……心得ました」


(あら、思ったより素直ね)



能員が去った後、義時が駆け込んできた。


「姉上!

 比企能員が……“政子殿は侮れぬ”と……!」


(侮れぬ、ね)


義時は続けた。


「姉上……

 何をされたのです……?」


「何もしていないわ。

 ただ、線を引いただけ」


義時は完全に固まった。


(この子、毎回驚いてる気がする)



夕方。


頼朝が、珍しく落ち着いた顔でやってきた。


「政子。

 比企能員が……

 “政子殿と話して考えを改めた”と言っていた」


(あら、そう言ったの)


頼朝は続けた。


「政子……

 お前は……私よりも……

 人の心が見えているのだな」


(まあ、銀座で鍛えられたからね)


私は静かに言った。


「頼朝さん。

 私はただ……

 守るべきものを守りたいだけよ」


頼朝は息を呑んだ。


「……政子。

 お前は……私の……」


また言いかけて、口を閉じた。


(またそれ)


廊下の侍女たちは震え上がった。


「聞いた!?

 政子様が比企家を“黙らせた”……!」


「やはり……恐ろしい……!」


(黙らせたんじゃなくて、話しただけよ)


私は空を見上げた。


──怒りではなく、

“線を引く”ことで守れるものがある。


それを、私は銀座で学んだ。


そしてこの日、

**政子は初めて“政治の場で自分の意思を示した”。

鎌倉の空気が、静かに変わり始めた。**


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