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『銀座ママ、北条政子に転生す 〜善人なのに悪女と呼ばれたので、今日も鎌倉を籠絡させます〜』  作者: 双鶴


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第13話 比企家、静かに牙を向ける

大姫の心が少し開いた翌日。


鎌倉の空気は、どこかざわついていた。

冬の風が強く、木々がざわめいている。


「政子様……本日は比企能員様が参られるとか……」


侍女が怯えた声で告げた。


(比企能員……頼朝さんの乳母の一族ね)


銀座で言えば──

“古参で、妙にプライドの高い幹部”みたいな人。


私は静かに頷いた。


「わかったわ。通して」


侍女は青ざめた。


「政子様……お気をつけくださいませ……

 比企様は……その……」


(ああ、もう“面倒な人”扱いなのね)



比企能員は、

にこやかな笑みを浮かべて現れた。


だが、その目は笑っていない。


(あら、このタイプ……銀座にもいたわね)


「政子殿。

 鎌倉殿の御心を落ち着かせたとか。

 いやはや、見事なものですな」


(褒めてるようで、全然褒めてないわね)


私は丁寧に頭を下げた。


「鎌倉殿が落ち着かれたのは、周囲の支えがあってこそです」


能員の笑みがわずかに揺れた。


「……謙遜が過ぎますな。

 鎌倉中が噂しておりますぞ。

 “政子様が鎌倉殿を動かしておられる”と」


(またそれ……)


私は静かに言った。


「噂は噂です。

 私は、ただ家族の心配をしただけです」


能員の目が細くなる。


「家族……ですか。

 それはそれは……」


(あら、気に入らなかったみたい)


能員は少し身を乗り出した。


「政子殿。

 鎌倉殿の周囲には、古くから支えてきた者が多い。

 比企もその一つ。

 どうか……そのことをお忘れなきよう」


(ああ、これは“縄張り意識”ね)


銀座でもよくあった。

新しいママが入ると、古参が牽制してくる。


私は微笑んだ。


「もちろんです。

 あなた方の支えがあってこそ、鎌倉は成り立っています」


能員は一瞬、言葉を失った。


(あら、予想外だった?)


能員は咳払いをして立ち上がった。


「……では、これにて」


去り際、

能員は小さく呟いた。


「政子殿……侮れぬお方だ……」



能員が去った後、

義時が慌てて駆け込んできた。


「姉上!

 比企能員が……姉上のことを“恐ろしい”と……!」


(またそれ……)


義時は続けた。


「比企家は……鎌倉殿の乳母の一族。

 彼らが姉上を敵視すれば……

 鎌倉は大きく揺れます!」


(まあ、そうでしょうね)


私は静かに言った。


「義時。

 私は敵を作るつもりはないわ。

 ただ、皆が落ち着いて暮らせればいいの」


義時は息を呑んだ。


「……姉上……

 あなたは……本当に……」


「何?」


「……鎌倉を救うお方です……!」


(褒められてるのか、持ち上げられてるのか、どっちよ)



その日の夕方。


頼朝が、少し険しい顔でやってきた。


「政子。

 比企能員が……お前のことを“侮れぬ”と言っていた」


「そう。

 でも、私は何もしていないわ」


頼朝はしばらく黙っていたが、

やがて低く言った。


「……政子。

 お前は……私の側にいてくれ」


(あら、珍しく素直)


その瞬間、廊下の侍女たちが震え上がった。


「聞いた!?

 鎌倉殿が政子様に“側にいてくれ”と……!」


「やはり……恐ろしい……!」


(いや、普通の夫婦の会話よ)


私は空を見上げた。


──誤解されても、敵視されても、

私は今日も誰かの心を整える。


それが、私の生き方だから。


そしてこの日、

**比企家との静かな軋轢が始まった。

後に鎌倉を揺るがす大きな火種となることを、

この時の私はまだ知らない。**


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