第120話 義時、三浦を守る
政子の助言を受けた翌朝。
──鎌倉の空気が変わった。
昨日までの“悪意の噂”は、
今日は“誰が空気を変えるか”を待つ沈黙へと形を変えていた。
「三浦殿は京と通じているらしい」
「いや、殿はそんな方ではない」
「北条殿は……どう動くのだ?」
(鎌倉は今、
“義時の一言”を待っている)
*
──政所。
御家人たちが集まり、
ざわつく空気が渦を巻いていた。
「三浦殿は沈黙したままか」
「和田の若者たちが騒いだのは事実だ」
「京の影があるのでは……?」
その中に、
義時が静かに現れた。
空気が止まった。
義時は政子の言葉を胸に刻み、
一歩、前へ出た。
「皆。
三浦義村殿は──
京とは通じていない」
ざわめきが走る。
「しかし……」
「噂が……」
義時は続けた。
「噂は“京が流したもの”だ。
鎌倉を割るために」
御家人たちの顔色が変わった。
「では……
三浦殿は……?」
義時ははっきりと言った。
「三浦義村殿は、
鎌倉の柱だ。
私が保証する」
空気が一気に変わった。
(義時……
あなたは今、
“空気を変える一言”を放った)
御家人たちのざわめきが収まっていく。
「北条殿がそこまで言うなら……」
「三浦殿は潔白だ」
「では、京の策か……」
政子が静かに頷いた。
(よし……
空気が変わった)
*
──三浦義村の屋敷。
義村は、
家臣からの報せを聞いていた。
「殿!
北条殿が……
“公の場で三浦殿を守る”と宣言されました!」
義村の目が揺れた。
「……義時殿が……?」
胤義が言った。
「兄上。
義時殿は……
兄上を信じております」
義村は胸に手を当てた。
(義時……
お前は……
まだ私を……
信じてくれるのか)
その瞬間、
義村の中で何かが変わった。
沈黙の重さが、
少しだけ軽くなった。
*
──政所。
義時が席に戻ると、
政子が静かに近づいた。
「よくやったわ、義時」
義時は息を吐いた。
「姉上……
これで……
鎌倉は……?」
政子は首を振った。
「まだよ。
空気は変わった。
でも──
“火の手”は消えていない」
義時の顔が険しくなる。
「では……
次は……?」
政子は灯火を見つめながら言った。
「京は……
次に“和田”を揺らすわ」
義時は息を呑んだ。
(和田……
義盛殿……)
政子は続けた。
「義時。
鎌倉は今、
“火事場の真ん中”にいる。
でも──
あなたが三浦を守ったことで、
ひとつの炎は消えた」
義時は深く頷いた。
「次は……
和田殿か」
政子は静かに言った。
「ええ。
ここからが本番よ」
*
──夜。
鎌倉の空気は、
義時の一言で確かに変わった。
だが──
その奥で、
新しい火が静かに燃え始めていた。
静かに、
しかし確かに──
鎌倉の底が、
またひとつ鳴った。




