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『銀座ママ、北条政子に転生す 〜善人なのに悪女と呼ばれたので、今日も鎌倉を籠絡させます〜』  作者: 双鶴


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第119話 政子、空気を読む

三浦義村が和田の若者たちを退けた翌朝。


──鎌倉の空気が変わった。


昨日までの“火事場の匂い”は、

今日は“誰かが油を注いだ匂い”へと形を変えていた。


「和田の若者たちは……誰に焚きつけられた?」

「三浦殿は京の駒にならぬと言ったらしい」

「では……京は次に誰を揺らす?」


(鎌倉は今、

 “次の火”を探している)


政子は政所の縁側に座り、

静かに空気を吸い込んだ。


──この匂い、知っている。


銀座の店で、

スタッフ同士の不満が誰かに煽られ、

一気に店全体へ広がる前の、

あの独特のざらつき。


「……これは、放っておくと店が潰れるパターンね」


義時が振り返る。


「姉上?」


政子は低く言った。


「義時。

 鎌倉は今……

 “誰かが意図的に空気を悪くしている”状態よ」


義時の顔が険しくなる。


(政子殿……

 何を感じているのです……?)



──三浦義村の屋敷。


義村は、

昨夜の対峙の疲れを引きずったまま、

静かに座っていた。


胤義が言った。


「兄上……

 和田の若者たちは、

 “京の密使に焚きつけられた”と申しておりました」


義村は目を閉じた。


(やはり……

 京は私を使うつもりだった)


家臣が駆け込む。


「殿!

 鎌倉中で“義村殿は京と通じている”という噂が……!」


義村の胸に、

冷たいものが落ちた。


(また……

 私の沈黙が……

 鎌倉を揺らしているのか……?)


胤義が叫んだ。


「兄上!

 噂に振り回されてはなりませぬ!」


義村は小さく頷いた。


「……分かっている。

 だが──

 私は……

 どうすれば……

 鎌倉を守れる……?」


その問いは、

誰よりも深く、重かった。



──政所。


義時が政子に報告した。


「姉上。

 鎌倉中で“義村殿は京と通じている”という噂が広がっています」


政子は目を細めた。


(来た……

 “空気を悪くするための噂”)


銀座の店で、

スタッフの一人を潰すために流される、

あの悪意のある噂。


政子は静かに言った。


「義時。

 この噂は……

 “誰かが意図的に流している”わ」


義時は息を呑んだ。


「では……

 京が……?」


政子は首を振った。


「京だけじゃない。

 鎌倉の中にも……

 “この混乱を利用したい者”がいる」


義時の顔が険しくなる。


(鎌倉の中にも……

 敵がいるのか)


政子は続けた。


「義時。

 あなたが今すべきことは一つよ」


義時は身を乗り出した。


「何を……?」


政子は静かに言った。


「三浦義村を……

 “公の場で”守りなさい」


義時は息を呑んだ。


「公の場で……?」


政子は頷いた。


「そう。

 あなたが義村を信じていると示せば、

 噂は消える。

 鎌倉の空気も変わる。

 そして──

 京の策は一度、止まる」


義時の胸に、

その言葉が深く刺さった。


(政子殿……

 あなたは……

 空気を読んでいるのか)


政子は灯火を見つめながら呟いた。


「……銀座の修羅場で学んだことよ。

 “空気”は、

 放っておけば店を潰す。

 でも──

 正しい一言で変えられる」


義時は深く頷いた。


「三浦殿を……

 守ります」


政子は微笑んだ。


「ええ。

 それが……

 鎌倉を守ることになる」



──夜。


鎌倉の空気は、

政子の言葉を待っているかのように、

重く、揺れていた。


静かに、

しかし確かに──

鎌倉の底が、

またひとつ鳴った。


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