表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『銀座ママ、北条政子に転生す 〜善人なのに悪女と呼ばれたので、今日も鎌倉を籠絡させます〜』  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

116/120

第116話 火種、最初の炎

院宣が落ちて二日目。


──鎌倉の空気が変わった。


昨日までの“陣営の裂け目”は、

今日は“火種の匂い”へと形を変えていた。


「三浦殿は……まだ沈黙か」

「北条殿は……どう動くのだ」

「和田の若い者たちが荒れているらしいぞ」


(鎌倉は今、

 “誰が最初に動くか”を息を潜めて見ている)


政子は政所の廊下を歩きながら、

胸の奥にざらつく違和感を覚えていた。


──この空気、知っている。


銀座の店で、

大口の客同士が火花を散らす前の、

あの独特の静けさ。


「……嫌な予感がするわ」


義時が振り返った。


「姉上?」


政子は小さく首を振った。


「義時。

 鎌倉の空気が……

 “荒れる前”の匂いをしているの」


義時は息を呑んだ。


(政子殿……

 何かを感じているのか)



──三浦義村の屋敷。


義村は、

家臣たちの圧力と院宣の衝撃で、

心が限界に近づいていた。


「殿!

 北条につくべきです!」

「いや、京につくべきです!」

「殿が決めねば、三浦家は滅びます!」


義村は頭を抱えた。


(私は……

 何を選べば……

 誰を守れば……

 正しいのだ……?)


そこへ、

若い家臣が血相を変えて飛び込んできた。


「殿!

 和田の若者たちが……

 北条家の屋敷に乱入しました!」


空気が凍った。


「な……に……?」


「三浦家の名を叫びながら、

 “北条を討つべし”と……!」


義村の顔が青ざめた。


(なぜだ……

 なぜ三浦の名を……?

 私は……

 そんな命を出していない……!)


家臣たちがざわつく。


「殿……

 これは……

 “誰かが三浦を利用している”のでは……?」


義村の心が大きく揺れた。


(京……

 お前たちか……?)



──北条義時の屋敷。


和田の若者たちが暴れ、

北条家の門前で乱闘が起きていた。


「三浦殿の名を騙るとは……!」

「やめろ! ここは政所の前だ!」

「北条を討て! 院宣が出たのだ!」


義時は駆けつけ、

怒号の中で叫んだ。


「やめよ!!」


しかし、

若者たちは止まらない。


(これは……

 ただの暴発ではない。

 “誰かが仕掛けた火”だ)


義時は歯を食いしばった。


「三浦殿を……

 巻き込むつもりか……!」



──政所。


政子は報せを聞き、

静かに目を閉じた。


(来た……

 最初の火種)


銀座の店で、

客同士のトラブルが爆発する瞬間を

何度も見てきた。


その直前に漂う、

あの独特の“空気の重さ”。


「……義時。

 これは偶然じゃないわ」


義時が息を呑む。


「姉上……?」


政子は低く言った。


「誰かが……

 “鎌倉を燃やすために”

 火をつけたのよ」


義時の顔が険しくなる。


(京……

 お前たちか)


政子は続けた。


「義時。

 この火は……

 放っておけば鎌倉を焼き尽くす。

 でも──

 消し方を間違えれば、

 もっと大きな炎になる」


義時は拳を握った。


「では……

 どうすれば……?」


政子は静かに言った。


「まずは……

 三浦義村を守ること。

 彼を失えば、

 鎌倉は本当に割れる」


義時は深く頷いた。


(政子殿……

 あなたは……

 何を見ているのです……?)


政子は灯火を見つめながら呟いた。


「……銀座の修羅場より、

 ずっと厄介ね」



──夜。


鎌倉の空気は、

ついに“火種”から“炎”へ変わり始めた。


政子は筆を取る。


「……義村。

 あなたを揺らす者がいる。

 あなたを利用し、

 鎌倉を割ろうとする者が。

 だが──

 あなたが立ち続ける限り、

 鎌倉はまだ燃え尽きない」


筆を置いた。


静かに、

しかし確かに──

鎌倉の底が、

またひとつ鳴った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ