第115話 鎌倉、陣営の裂け目
義時が“朝敵”とされた翌朝。
──鎌倉の空気が変わった。
昨日までの“戦の匂い”は、
今日は“陣営の裂け目”へと形を変えていた。
「北条殿につくべきだ!」
「いや、京を敵に回すのは危険だ!」
「三浦殿は……どう動くのだ……?」
(鎌倉は今、
“誰がどちら側につくか”を見極めようとしている)
政所の広間には、
御家人たちが二つの輪を作っていた。
北条の周りに集まる者。
三浦の動向を伺う者。
義時はその光景を見て、
胸の奥が冷たくなるのを感じた。
(鎌倉が……割れ始めている)
*
政子が静かに現れた。
その瞬間、
ざわついていた空気が止まった。
「皆。
京は鎌倉を割るために、
まず“三浦”を揺らし、
次に“北条”を刺しました」
御家人たちが息を呑む。
「そして今──
“鎌倉そのもの”を割ろうとしています」
義時は続けた。
「だからこそ、
三浦殿が必要だ」
御家人たちの視線が一斉に三浦の屋敷の方角へ向く。
(義村殿……
あなたの決断が、
鎌倉の命運を左右する)
*
──三浦義村の屋敷。
院宣の衝撃がまだ胸に残る中、
義村は家臣たちに囲まれていた。
「殿!
北条につくべきです!」
「いや、京につくべきです!」
「殿が決めねば、三浦家は滅びます!」
義村の顔が歪んだ。
「……黙れ……
私は……
まだ……
決められぬ……」
家臣たちの空気が一気に張り詰めた。
「殿……
“決められぬ”では済みませぬ!」
「鎌倉はもう、戦の前夜!」
「殿の沈黙が……
三浦家を殺します!」
義村の心が揺れた。
(私は……
沈黙で……
三浦を……
鎌倉を……
揺らしているのか……?)
そこへ、
胤義が静かに言った。
「兄上。
京は……
“兄上を駒として使う”つもりです」
義村は息を呑んだ。
(私は……
京の駒……?)
*
──政所。
義時が声を上げた。
「皆。
院宣は“北条義時を討て”ではない。
“鎌倉を割れ”という命令だ!」
御家人たちがざわつく。
「では……
戦うしかないのか……?」
「鎌倉は……
京と戦えるのか……?」
政子は前に出た。
「戦えるわ。
ただし──
“一つであれば”の話よ」
空気が止まった。
「三浦。
和田。
畠山。
北条。
誰が欠けても鎌倉は負ける」
義時は続けた。
「だからこそ……
三浦殿が必要だ」
御家人たちの視線が、
再び三浦の屋敷へ向く。
(義村殿……
あなたの沈黙は、
もう許されない)
*
──その頃、京。
後鳥羽院は報告を聞き、
静かに笑った。
「鎌倉は割れ始めたか。
良い兆しだ」
侍従が言った。
「しかし……
政子様と義時殿が支えております」
後鳥羽院は扇を閉じた。
「ならば──
“三浦を揺らし続ける”」
行成は息を呑んだ。
(京は……
本気で“鎌倉の柱”を折りに来る)
*
──夜。
政子は灯火の揺れを見つめていた。
鎌倉は、
ついに“陣営の裂け目”を見せ始めた。
筆を取る。
「……義村。
あなたの決断が、
鎌倉を救うか、
鎌倉を割るか。
その岐路に立っている」
筆を置いた。
静かに、
しかし確かに──
鎌倉の底が、
またひとつ鳴った。




