第114話 院宣、鎌倉を裂く
三浦家の裂け目が広がった翌朝。
──鎌倉の空気が変わった。
昨日までの“陣営の匂い”は、
今日は“戦の前触れ”へと形を変えていた。
「京が動くらしい」
「北条殿に何かが届いたとか……」
「鎌倉は……どうなるのだ」
(鎌倉は今、
“外からの衝撃”を待っている)
その衝撃は、
思ったより早く訪れた。
*
政所に、
一騎の早馬が駆け込んだ。
「北条殿へ急報!
京より“院宣”が届きました!」
空気が凍った。
義時が巻物を受け取る。
その手が震えているのが、誰の目にも分かった。
政子が静かに言った。
「義時……
開けなさい」
義時は頷き、
震える指で封を切った。
巻物を広げた瞬間──
政所の空気が変わった。
**『北条義時、朝敵とす』**
御家人たちが息を呑んだ。
「……朝敵……?」
「義時殿が……?」
「京は……鎌倉を討つつもりだ……!」
義時は呆然と呟いた。
「姉上……
私は……
朝敵とされたのですか……?」
政子は義時の肩を掴んだ。
「義時。
これは“あなた個人”ではない。
京は……
“鎌倉そのもの”を敵に回したのよ」
御家人たちのざわめきが広がる。
「三浦の件は……囮だったのか……?」
「京は最初から北条を狙っていた……?」
「これは……戦の前触れでは……?」
政子は言った。
「皆。
京は鎌倉を割るために、
まず“三浦”を揺らした。
そして今……
“北条”を刺しに来たのよ」
義時は拳を握った。
(京は……
私を折りに来たのだ)
*
──三浦義村の屋敷。
院宣の報せが届いた瞬間、
義村は立ち上がった。
「義時殿が……
朝敵……?」
胤義が言った。
「兄上。
これは京の罠です。
鎌倉を割るための!」
義村は拳を握った。
「京は……
私ではなく……
北条を狙った……
つまり……
私は……
“囮”だったのか……?」
家臣たちがざわつく。
「殿……
どうされますか……?」
「北条につくのか……?」
「それとも……京に……?」
義村の心が揺れた。
(私は……
どちらにつく……?
鎌倉か……
京か……
義時か……
後鳥羽院か……)
義村は震える声で言った。
「私は……
まだ……
決められぬ……」
家臣たちが息を呑んだ。
(義村……
あなたは今、
“選ばされる側”から
“選ぶ側”へ押し出された)
*
──京。
後鳥羽院は報告を聞き、
静かに笑った。
「鎌倉は割れ始めたか。
良い兆しだ」
侍従が言った。
「しかし……
政子様と義時殿が支えております」
後鳥羽院は扇を閉じた。
「ならば──
“支えを折る”」
行成は息を呑んだ。
(京は……
本気で“北条”を討つつもりだ)
*
──夜。
政子は灯火の揺れを見つめていた。
鎌倉は、
ついに“戦前夜”へ足を踏み入れた。
筆を取る。
「……義村。
あなたの決断が、
鎌倉の命運を決める。
だが──
京は次に“あなた”を狙う」
筆を置いた。
静かに、
しかし確かに──
鎌倉の底が、
大きく鳴った。




