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『銀座ママ、北条政子に転生す 〜善人なのに悪女と呼ばれたので、今日も鎌倉を籠絡させます〜』  作者: 双鶴


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第1話 転生、銀座ママは鎌倉に立つ

銀座の夜は、人の弱さと強さが交互に顔を出す。


店を閉めた私は、裏通りを歩いていた。

冬の空気は澄んでいて、街灯の光が路面に長い影を落とす。


「……今日も、みんな笑って帰ってくれたわね」


私は、神咲政子。

銀座でも名の知れたクラブ『華灯かとう』のママだ。


“政子”という源氏名は、少し古風だと言われる。

でも私はこの名前が好きだった。

母がくれた、たった一つの贈り物だから。


──人を大切にしなさい。

──誰かの心を照らせる人になりなさい。


その願いが込められていると、ずっと思っていた。


だから私は、今日も誰かの心を救った。

泣きたい人には寄り添い、怒りに震える人には静けさを与え、

孤独な人には、居場所を作る。


それが私の仕事であり、誇りだった。


そんな夜だった。


──キィィィィッ!!


耳を裂くようなブレーキ音。

振り返ると、暴走した車がこちらへ突っ込んでくる。


ライトが眩しい。

時間がゆっくりになる。

逃げる余裕なんてない。


「……まだ死にたくない」


それは、思わず漏れた本音だった。


光が弾け、世界が反転する。



土の匂いで目を覚ました。


「……え?」


視界の端で、巨大な影が迫ってくる。

蹄鉄の輝き。荒い鼻息。馬だ。


──馬に轢かれる。


反射的に身を縮めた瞬間、誰かが私の腕を強く引いた。


「政子様、危のうございます!」


政子様?


私は息を呑んだ。


見上げれば、鎧を着た男たち。

周囲には木造の家々。

空気は冷たく、どこか懐かしい香の匂いがする。


そして、私の手は──

銀座で見慣れたものより、ずっと白く、細かった。


「ここ……鎌倉……?」


侍女が泣きそうな声で叫ぶ。


「北条政子様、お怪我はございませんか!」


──北条政子。


歴史で“悪女”と呼ばれた女性。


私は、彼女の身体に転生していた。


暴走車の光の中で消えた“源氏名・政子”が、

今度は本当に“源氏の政子”として目覚めたのだ。



「政子様、本当に大丈夫でございますか……?」


侍女の手が震えている。

私は思わず、銀座で何百回も使った言葉を口にした。


「大丈夫よ。まずは深呼吸しましょう」


侍女はぽかんとした顔で私を見る。

でも、呼吸は少し落ち着いたようだ。


──どんな時代でも、人の心は同じ。


私は周囲を観察した。

銀座で培った“人間観察”は、転生しても健在だった。


鎧の男たちは緊張している。

馬は興奮しているが、手綱を握る男は慣れた手つきだ。

侍女たちは、私の顔色ばかり見ている。


つまり──

この世界の“政子”は、周囲からとても大切にされている。


そして、私はその政子の身体にいる。


「……落ち着いて。私は平気よ」


そう言うと、侍女たちは安堵の息を漏らした。


その瞬間、私は悟った。


この世界で生きるためには、銀座で培ったすべてを使うしかない。


人の心を読む力。

場を整える力。

誰かを救う力。


銀座ママとしての私のすべてが、

この鎌倉で必要とされる気がした。


たとえ、後世に“悪女”と呼ばれようとも。


私は、今日も誰かの心を救う。

銀座ママ流に。


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