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第九章:風を託す者、鼓動の継承点

風は、誰かに託されることで、次の鼓動を生む。 この第九巻では、風見塾が“継承”というテーマに挑みます。走ることは、もはや個人の挑戦ではなく、魂の移動。風を渡すことは、記憶と感情を手放すことでもあります。 そして今回も、少しだけ笑える場面を添えて。風を受け取って「重い」と言う若者、それを「それでいい」と返す大人――人間って、やっぱり面白い。 風を託す走り――その深みを、どうぞ感じてください。

風は、誰かに託されることで、次の鼓動を生む。 それは、走る者が“自分の風”を手放す覚悟を持ったときにだけ訪れる。


風見塾は、創設から十年を迎えていた。 かつて峠を駆け抜けた者たちは、今や指導者となり、技術者となり、思想家となっていた。 剛志は塾の顧問として若者たちに「風の記憶」を語り、翔太は「K-ZERO SYMPHONIA」の完成を目前に控えていた。美月は峠文化の国際保存機構を設立し、リナは環境と走行の共存モデルを国際標準化へと導いていた。


そして悠人は、走ることを“託す”立場になっていた。 彼はまだ走っていた。だが、その走りは「誰かに風を渡すため」の走りだった。


「風は、俺の中にある。でも、いつか誰かに渡さなきゃいけない。」


風見塾には、次世代の走者が育っていた。 ・音羽おとは――風を“音”で感じる少女。共鳴型走行の第一人者。 ・蒼士そうし――風を“匂い”で読む少年。風の履歴を再現する走りを持つ。 ・遥人はると――風を“記憶”として捉える青年。過去と現在を繋ぐ走行理論を構築中。


彼らは、風を“受け継ぐ準備”を始めていた。だが、風は簡単には渡らない。 それは、走る者の魂ごと託す行為だからだ。


翔太が新たなレース形式を発表する。 「リレー・オブ・ウィンド」――三人一組で走る、継承型レース。 第一走者が風を“生み”、第二走者が風を“並び”、第三走者が風を“受け継ぐ”。 走りの中で風を渡す。それは、技術でも感覚でもない、“魂の移動”だった。


悠人は、第一走者として出場を決める。 第二走者は音羽。第三走者は――蒼士か遥人か。 塾内で議論が起こる。誰が“風を受け取る器”なのか。


剛志は言った。


「風は、選ばない。でも、見てる。誰が本気で走ってるか。」


選ばれたのは――遥人だった。 彼は、過去の風を記憶し、未来の風を想像できる者だった。


レースの舞台は、アイスランド・ミーヴァトン湖畔。 風は冷たく、鋭く、そして静かだった。 自然の風と地熱の風が交錯するこの地で、風は“記憶”を試す。


スタート前、悠人は音羽と遥人に言った。


「俺の風は、もうすぐ終わる。でも、次の風は、お前らが吹かせるんだ。」


第一走者・悠人。 彼は、K-ZERO SYMPHONIAを駆り、風を生み出す走りを見せる。 風は彼の鼓動に応え、路面を撫でるように流れる。 第一コーナー、風が高音で笑う。第二コーナー、風が低音で試す。 悠人は、すべてを受け止め、風を“形”にして走る。


第二走者・音羽。 彼女は、悠人の風を受け取り、並んで走る。 風の音を聞き分け、旋律のようにラインを描く。 「風は、歌ってる。悠人さんの歌を、私がハモる。」


第三走者・遥人。 彼は、風の記憶を受け取る。だが、風は重かった。 悠人の走り、美月の峠、剛志の記憶――すべてが風に宿っていた。


「風が……泣いてる。過去を手放したくないって。」


遥人は、ステアリングを握りながら言った。


「でも、俺が走ることで、風は未来に行ける。」


最終コーナー。風が沈黙する。 遥人は、過去の風を思い出す。悠人が初めて走った峠。剛志が記憶を失ったサーキット。美月が涙を流した夜。


「風は、記憶だ。だから、俺が走ることで、忘れない。」


ゴールラインを越えた瞬間、風が吹いた。 それは、悠人から遥人へと渡った風だった。


勝者は――風見塾。


ピットに戻った悠人は、遥人と抱き合った。


「お前に、風を渡した。」


「受け取ったよ。でも、まだ重い。」


「それでいい。風は、軽くない。」


風見塾は、継承型走行の研究を本格化させる。翔太は「K-ZERO LEGACY」の設計に着手。美月は“風の記憶”をテーマにした峠保存プロジェクトを開始。リナは風の“継承モデル”を環境教育に組み込む提案を始めた。


そして悠人は言った。


「次は、俺が走らない。風を見守る側になる。」


赤いスポーツカーは、今も走っている。だが、ステアリングを握るのは、次の世代。 走ることは、風を託すこと。そして、鼓動を継ぐこと。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。 この巻では、風を“託す”というテーマに挑みました。風は、誰かの記憶を乗せて吹いている。だから、走ることは、誰かの想いを継ぐこと。 書きながら何度も思いました。風って、軽そうで重い。でも、その重さこそが、走る者の誇りなのかもしれません。 もしあなたの心にも、少しでも風が吹いたなら、それがこの物語のゴールです。 次巻では、悠人がステアリングを手放し、風を見守る者になります。風は、まだまだ走り続けます。

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