第四章:軌道の果て、風の先へ
風は、いつも先を走っている。 この第四巻では、風見塾が世界の舞台で試され、人間の感覚とAIの最適解が激しくぶつかります。 走ることは、技術だけではない。心が震え、記憶が揺れ、魂が軌道を描く――そんな瞬間にこそ、風は応えてくれるのです。 そして今回は、少しだけ笑える場面も。だって、真剣に走るほど、人は不器用で、愛おしい。 風の先に何があるのか、一緒に確かめてみませんか。
赤いスポーツカーがピットロードをゆっくりと進む。神谷悠人はヘルメットの中で深く息を吐いた。ステアリングの感触、シートの沈み込み、エンジンの微振動――すべてが、彼の神経と直結していた。
「タイヤ温度、あと3度。ブレーキ圧は安定してる。風は西から、時速4キロ。」
翔太の声が無線から届く。風見塾の技術チームは、今や国際レースでも注目される存在となっていた。AI制御と人間の感覚を融合させた「K-ZERO NEO」は、世界のトップマシンと肩を並べる性能を持っていた。
だが、悠人はAIに頼らなかった。彼は“風を読む”ことにこだわった。風は数値ではない。肌で感じ、心で捉えるものだ。
「翔太、AI制御、切るぞ。」
「……了解。人間の感覚、信じてる。」
スタートラインに並ぶマシンは、どれも最新鋭だった。カーボンボディ、電動ターボ、空力制御。だが、悠人のマシンは、父・剛志の設計思想を受け継いだ“感応型”だった。走る者の感情に応じて、車が応える。
レース開始。エンジンが咆哮を上げ、タイヤが路面を噛む。第一コーナー、悠人はアウト側から進入。ブレーキングポイントは、他車より1.2メートル遅い。だが、K-ZERO NEOは沈み込みながらも安定していた。
「フロント、少し逃げてる。リアに荷重移す。」
彼はステアリングをわずかに切り足し、アクセルを踏み込む。車体が路面に吸い付くように旋回する。第二コーナー、風が変わる。西から南へ。悠人は即座にラインを修正。風の流れに合わせて、車体の向きを変える。
「風は、敵じゃない。味方だ。」
中盤、蓮が追い上げてくる。彼のEVマシン「L-ONE」は、加速性能でK-ZERO NEOを凌駕していた。だが、悠人は焦らない。彼は“風の隙間”を探していた。
第六コーナー、風が一瞬止む。悠人はその瞬間にアクセルを全開にした。車体が跳ねるように加速し、蓮のインを突く。
「風が止まるとき、走りは跳ねる。」
最終ラップ。悠人と蓮が並ぶ。観客は息を呑む。だが、悠人は蓮に言った。
「この先、風は読めない。だから、感じるしかない。」
最終コーナー。悠人はブレーキを遅らせ、ステアリングを切り込む。タイヤが悲鳴を上げる。だが、車体は滑らず、風の流れに乗って旋回する。
ゴールラインを越えた瞬間、悠人は叫んだ。
「風は、俺たちの中にある!」
勝者は悠人だった。だが、蓮は笑っていた。
「お前の走り、風そのものだったよ。」
レース後、風見塾は世界選手権への正式招待を受ける。だが、そこには新たな課題が待っていた。AIによる完全制御マシン「ゼロ・ドライバー」の登場。人間の感覚を排除し、最適解だけで走るマシンだった。
「人間の走りは、もう必要ないのか?」
悠人は悩んだ。だが、剛志が言った。
「風は、計算できない。だからこそ、走る価値がある。」
風見塾は挑戦を決めた。人間の感覚で、AIを超える。そのために、翔太はK-ZERO NEOの“感情応答モード”を開発。美月は峠走行の極限技術を伝授し、リナは環境負荷ゼロの燃料を完成させた。
そして、世界選手権の舞台へ。赤いスポーツカーは、再び風を抱いて走り出す。
走ることは、限界を超えること。 風は、魂の軌道。 そしてその先には――まだ誰も知らない“風のかたち”がある。
ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。 この巻では、走ることの“限界”と“その先”に挑みました。AIに負けるかもしれない。風に裏切られるかもしれない。 それでも人は走る。なぜなら、風はいつも“人間らしさ”に惹かれて吹くからです。 書きながら何度も思いました。風って、気まぐれで、でも誠実。 もしあなたの心にも、少しでも風が吹いたなら、それがこの物語のゴールです。 次巻では、さらに深く、さらに遠くへ。風はまだ、止まりません。




